小説

□甘い情事
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※過激な性描写がありますので、苦手な方や18歳未満の方は閲覧をお控えください。





茂呂と琴吹。
二人は琴吹の部屋で酒を飲み交わしていた。
茂呂は空になりそうな琴吹の杯を見ると、自分の傍らに置いてある徳利を手に取り、酒を注いでやった。
今宵だけで、この作業をどれほど繰り返したことか。
床には空になった徳利が無造作に転がっている。それはほとんど琴吹の豪快な飲みっぷりによるものであった。
相変わらずの酒の強さに感心しつつ、僅かに呆れた表情も滲ませる茂呂であった。

「ほら、茂!お主ももっと飲まんか!」

琴吹は上機嫌に徳利を手に取り、まだ充分に満たされている茂呂の杯に酒を注ごうとした。

「ちょ、ちょっと待てって!」

それを見た茂呂は慌てて琴吹の手を制止し、己の杯の酒を一口、二口胃袋に流し込んだ。
そうして、ある程度杯に酒を注ぎ込める余裕を作ると、琴吹の手を離し、酒を注ぐことを許可した。

「はっはっは!お主もなかなかの飲みっぷりだなぁ!」
「やれやれだぜ…」

茂呂は、酔っぱらいの相手は骨が折れる、なんて心の中でぼやいたが、それと同時に、楽しげな琴吹を見て安心している自分がいることを自覚した。
いつも上からの重圧に耐え、それでいて下にはそれを感じさせぬ威厳を保ち続ければならない、代官という仕事を弱音1つ吐かずにこなす琴吹のことを、茂呂は尊敬している。
それと同時に、少々心配もしているのだ。
心身ともに負担をかけすぎて、いつかちょっとした拍子に壊れてしまうんじゃないか、と。
だから、羽目をはずして酒を楽しむ琴吹を見ると、ちゃんと心のはけ口があるのだな、と思いホッとする。
まあ、見た目からして強靭な琴吹のこと、心もそれと同等だろう、とは思うのだが。
人間とはわからないものなのだ。茂呂はそれをよく知っていた。
かつて熱心に働いていた自分が、その意欲を簡単に失ってしまったように。
人間はちょっとしたことで変わってしまう。それは一瞬だったり、時間をかけて徐々に、といったようなものだったりと様々だが。

茂呂が黙ってそんなことを考えていると、唐突に琴吹が口を開いた。
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