捧げ物&頂き物

□それは夕陽のせい
1ページ/2ページ

右腕を強く握られ、遊星は思わず身を強ばらせた。一体どういう鍛え方をすれば、その華奢な身体からこんな力が出るのだろう。
 そして今度は左腕だ。千年パズルとかいうオカルトなものに封じ込められている、別の人格だった。その目はあのパラドックスとのデュエルの時のように、鋭く、凛々しかった。
「二人とも…放してくれませんか……」
 今遊星は十代とアテムという先輩デュエリストに挟まれている。パラドックスとの激闘を終えた後、遊星のスターダストも無事戻り取り敢えずは一件落着というところだ。遊戯と出逢ったビルの屋上で三人は談笑していた。流石に誰もが疲労の表情を浮かべていた。
 ところが遊星がふと目を離した隙に十代とアテムが言い争っていたのだ。遊星は突然の事にどう反応していいか分からずただただ黙って様子を窺っていたが、どうやら二人は自分の事で言い争っているようだと気付くと、一瞬にして身体が凍りつくのを感じた。
 ただでさえ時空を越えてきたのに。遊星は正直これ以上問題に巻き込まれたくなかった。
「遊星っ」
「っ、はい、」
 急に十代にいきなり大声で呼ばれ、遊星は声が突っかかってしまう。二人は遊星の腕を解放した。遊星は無意識に二人に掴まれていた腕をさすってしまう。
 すると十代が険しい表情で遊星に詰め寄る。遊星は一歩一歩後ろへ退けるが、やがてフェンスに背中がぶつかり、諦めた表情で口を開いた。
「……何ですか」思わず無愛想になる。
「遊星…こうなったら直に本人に聞くしかないぜ」
 ここで初めてアテムが口を開いた。その口調はいつものように淡々としていた。
「遊星は 俺と十代君、どっちが好みなんだ」
「………えっ」
 全身から変な汗が噴き出た気がした。
 遊星は変な事を聞かれる事を予め予想して身構えていたのだが、ここまで斜め上をいくとは思っていなかったのだ。
 二人は遊星の答えをじっと待っている。 好み、というのは勿論男性として、だろうか。だが遊星はこの問いには答えられなかった。なぜなら遊星には、心を寄せる相手が既にいたからだ。
「…そっか、まあ遊星みたいな奴なら恋人の一人や二人くらい、いるよなあ」
十代の顔が陰って見えた。遊星はそれは夕陽のせいだと信じたかった。申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
アテムも通常運転で冷静沈着を保っているが、どうしても遊星は二人の心が読めてしまう。
「それで、どういう奴なんだ 相手は」
十代が慌てた様子でアテムに何か伝えようとしたが、遊星がそれを制止した。
遊星はある人物を思い描く。心の中でも金髪が眩しい程だ。そして薄い笑みを夕陽の中で浮かべ、遊星は言った。
「とても、優しくて 強くて…」
「お二人みたいに、カッコいい人です」
二人は何故か遊星が哀しい表情をしているように見えた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ