頂き物・捧げ物
□打ち上げ花火に込めた想い
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今日は今年夏最後のイベントの夏祭り。
結構大きなお祭りで、観光客もたくさんきます。
目玉は海辺の地域である事を利用した海からの打ち上げ花火。
県では最大級の打ち上げ花火は光も音もすごい迫力で本っ当にすごいんだから!!
…………なんて言ってるけど、実を言うと私はこのお祭りが好きじゃなかった
花火は好きだし、屋台も好き。だけど……
私は人混みに強い拒絶反応がでちゃって人の多い所に行ったりできない。
他の人が一緒だったら無理でもないんだけど、一人っ子の私の両親は二人とも警察官だから夏祭りの警備で私を連れて行けない。
友達と行こうとしたこともあったけど、途中で少し姿が見えなくなっただけでアウト。
そのまま倒れちゃって気づいたら救護所のベットの上。
みんなに言ってなかった私が悪かったんだけど、それからは誘いづらくなっちゃったみたい。
だから私は夏祭りの間は家で留守番。
朝に起きると夜中の間に帰ってきた両親が置いていったお土産があるんだけど、一人で食べても美味しくない。
そう思ってた。
……………でも、去年は違った。
高校生になってした人生初の恋の相手は、私も所属する吹奏楽部でサックスを吹いている同じパートの先輩。
入部する前から好きだった。
クラブ紹介で5人ぐらいで演奏してた先輩がとても格好良くて、素敵で……。
……でも、中学、高校と何人にも告白されているけど、一人もOKされた人がいない。
私なんかが告白してもダメに決まってる。
それでも、それだからこそ、私の先輩と一緒にいたいって気持ちは募っていって……
気が付いたら口にでてた。
まだ入部して三ヶ月しか経ってないのに……
「先輩、好きです。付き合ってください」
先輩は一瞬、びっくりした表情をしてから
「…………ごめん、付き合えない」
…………やっぱり。でも………………
「わかってます。でも、理由を聞かせてください。私が納得できる理由を」
気持ちなら誰にも負けない。絶対に諦めない。
言った以上はもう退けない!!
「……付き合ったら、君を傷つけるのがわかってるから」
ダメ!!……涙腺が決壊した。涙が溢れて止まらない……!!
先輩にいきなり抱きつき、泣きじゃくる。
「納得できません!!私は……私は先輩のために傷つきたい、先輩のために涙を流したい!!でも、それより多く、もっとたくさん、先輩と笑っていたいんです!!」
「…………………………」
「傷つける?なんでそんなことわかるんですか!?そんな不確定な未来の話で納得しろって方がムリです!!前までの娘は諦めたかもしれませんが、私は諦めません。先輩を諦めませんから!!」
先輩は、泣きやむまでしゃくりあげる私の頭を撫で、背中をさすってくれた。
そして、顔を上げた私に……
「そこまで押してくる女子は初めてだよ。負けた。こんな俺で良ければよろしく」
………………もう一度泣いたのは言うまでもない。
「どっか遊びに行かない?」
そんな電話がかかってきたのは夏休みももう終わりの8月26日のことだった。
クラブでほぼ毎日会っているので気にしてなかったけど、デート…したことないな。
「行きます行きます!どこ行きますか?」
「それはお楽しみ。明日の午後5時、浪寄公園で待ち合わせな」
「わかりました。5時に浪寄公園ですね」
「あ、あと、浴衣を着てくること。お前のお母さんが持ってるから、着付けしてもらえ」
「え?なんでそんなこと知ってるんですか!?」
「デートの下調べしないほどの甲斐性無しじゃないつもりだよ。俺は」
…………やっぱり背中は格好良いって思っちゃうのは贔屓目にみてるせい?
わかりました。と電話を切った時には舞い上がっていて、どこに行くのか、深く考えていなかったことは秘密である。
「お待たせ」
待ち合わせの時間10分前に先輩が来た。
私服もやっぱり格好良い。
私?私は先輩が言った通りに浴衣をお母さんに着付けしてもらって、一時間前から待ってたよ。
……っていうのは半分嘘で、はしゃぎすぎて時計を一時間見間違えただけです。
「じゃ、行こっか」
「どこに行くんですか?」
「浴衣まで着てるんだ。夏祭りに決まってるだろ?」
………………え?
でも、私の事は先輩には話してるのに、どうして?
「他の人と一緒なら大丈夫なんだろ?大丈夫。俺は絶対に離れないから」
と言って私の手をとる。
私の心臓がドクンと跳ねる。
手を繋ぎながらも少し前を歩く先輩の耳が少し赤いのは先輩自身、気付いてないんだろうな……。
夏祭りでは色々な露店を見た。色々買って先輩と食べた。山車の上に乗ってる人に手を振ってもらえた。………
とっても楽しかった。今まで行けなかった分を取り返すかのように私と先輩は遊んだ。
今は午後7時半。花火は8時から。
「こっち」
と先輩が手を引いていく方向は海と反対側。
「先輩?花火会場はむこうですよ?」
「わかってる。でもついてこい。」
と、30分歩いて着いたのは海の近くの丘の展望台。
人っ子一人いない。
「ここ、穴場なんだよ。普段でも人なんて来ないから、こんな日ならなおさらだ」
ほら、と先輩が指差す方を見ると……
ヒュルルルルル………ドン!!
……花火が始まった。
先輩と二人っきりでの花火鑑賞。握った右手はまだ温かい。
先輩の方を見ると先輩もこっちを見ていて……
目が合う。
顔が近づく…………
そして…………………………………
『先輩が死んだ』
それを聞いたのは9月1日。始業式の日だった。
ウソ……いや…………
そう思いながらも涙は流れない。
先輩の両親に聞いた話だと、先輩はゆっくりながらも、健康ながらも、しかし確実に死に至る病気で、医師の余命宣告の期日から、既に五年経っているらしい。
先輩は中学、高校と彼女を『作らなかった』んじゃない、『作れなかった』んだ。
「傷つけるから」
その言葉には
『もう、いつ死んでもおかしくないから』
という裏があったのだ。
「これを」
と先輩の両親が私に渡したのは便箋に入った手紙だった。宛名面には私の名前。
8月30日、先輩は今日は早く寝ると自分の部屋に入っていったらしい。
31日の朝に起きて来ない先輩を気にした両親が部屋に入ると、机に手紙を便箋に入れた状態で机で眠るように亡くなっていたという。
…………笑っていたらしい。
家に帰って手紙を読んだ。
それには『病気のこと、隠しててごめん』『たくさん泣いて、泣き終わったらまた、笑って生きてください』『次に好きになる人が僕みたいな人だといいな』
…………といったような事が先輩の綺麗な字で書かれていた。
そして最後に書いてあった
『ありがとう』
「…………………………………………!!」
涙が一粒、頬を伝う。
二粒、三粒……
やっと泣けた。やっと先輩の死を受け入れた。
泣いて、泣いて、泣いた。
一週間泣いて、涙が枯れた。
…………また今年も夏祭りの時期になりました。
8月27日、午後8時。浴衣を着た私は一人、丘の上の展望台に立っています。
手には来る途中で買ってきたちっちゃな打ち上げ花火。
火をつけて、少し離れる。
先輩、ごめんなさい。まだ吹っ切れません。
まだ先輩のことが好きです、大好きです。
でも、いつか、先輩ぐらい好きな人ができたら連れてきます。
その時にもう一度お別れを言いにきます。
その時が来るまで、好きでいさせてはくれませんか?
ヒュルルルルル………ドン!!
これは、私からの先輩への花束。
初恋の人へと捧げる、私の恋心。