今日俺

□cherry picking! Lesson1 ※
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「今井さん、あの伊藤ってヤツに気を付けて下さいね」

晴れて高校入学を果たし充実した喧嘩ライフを送っていた春のど真ん中、午前の授業でチカラを使い果した脳に栄養を与えるべく弁当箱の蓋を開けた俺に、谷川が小声で注意を促してきた。

「イトウ?」

「はい」

はて。イトウとは。
新設校であるこの紅羽高校には一年生しかいない。そして俺はその一年の全てを制する事に成功した。ということはだ。イトウとやらが何者であれ、俺が気を付けるべき事は何も無いはずである。
ああ疲れた。ささ、弁当を。

「伊藤は転校生ですよ」

「転校生?」

「はい」

いたっけか、そんなん。
こんな時期に?と思いつつ記憶を手繰り寄せる。
そういや黒川あたりが目付きが悪い転校生をシメるとかシメないとか騒いでいた気がする。確か藤田はそんなに乗り気じゃなかったな。ベツに普通の人だろとかなんとか。
なんだ。ツッパって無いのだったら俺には全く関係ない。
まず大部分を占める白米から食おう。

「どうも良くない噂があるんです」

「良くない噂?」

「男が好きみたいです」

「ぶふぅっ」

驚いた。
あまりの事に盛大に吹いてしまい、弁当の中身がとっ散らかってしまった。
慌てて救済できるものを広い集める。

「あぁーまだ食べてないのに…」

「この変な時期に転校してきたのもソッチ関係みたいですよ。なんでも野郎の先公を誑かしたとか。はい鮭です」

「サンキュー谷川。でもそれって俺に関係あるか?あるとしても野郎ばっかのガッコーだし気を付けなきゃいけないのは俺だけじゃないだろ?」

「それが……」

谷川が黙っている内に、かろうじて残った中身が半分以下になった弁当をかき込む。
やばいな〜これだけじゃ全然足りないな〜。
午後どうすっかな。途中でふけるかな。

「……どうやら今井さんみたいなのがタイプみたいです」

「ぅぶうっハッッッ」

「うわっ、大丈夫ですか。今井さん」

大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃないぞ谷川。
腹が減ってるのに、脳に栄養が足りてないのに、昼飯を胃に収める事が出来なかったんだぞ。全部口から出てってしまった。
その上なんだって?
イトウって野郎が俺のことタイプだって?どういうこと?なんで。

「なんで。誰がそんなこと」

「黒川ですよ。あいつ結局、藤田連れて伊藤に因縁つけに行ったんですけど。強かったんです、伊藤。二人とも一発KOだったって。そしたら奴が一言。『今井くんみたいな男、タイプなんだよね。今度会いに行くからヨロシク言っといて』とそう言われたらしいです」

「よっ、よろしく⁉」

どうヨロシクされてるんだ⁉

「美味しく頂かれないで下さいね」

「不吉な事言うな!」

俺は昼飯食べられなかったのに!逆に食われるなんてそんなのない。
あぁ駄目だ、今日はもう帰ろう。腹が減った。帰って飯!イトウの事は明日考える。

「パン食うか?」

「食べる!」

「あっ」とかなんとか谷川の小さい声がしたが、俺は構わず目の前に現れたパンを手に取った。あんぱんだ。

「牛乳は?」

「飲む」

あんぱんと牛乳は最高に合うのだ。

「その組み合わせ、最高だよな」

「わかる」

話の分かる奴だ。ん?どうした。何をパクパクしてるんだ谷川。あんぱんはやらんぞ。うん、美味い。薄いがしっかり存在感があるもちもちとしたパン生地は絹の様な舌触りで中のアンコを絡め取り、絶妙な塩気と甘味のバランスが次の一口を誘う。
しかしここで牛乳を流し込むのが通というものだ。

「はい牛乳」

「あぁ、ありがとう」

なんて気の利く奴なんだ。わかってらっしゃる。
でも一体誰だろう?切れ長で一重の吊り目は涼し気で、小さい瞳は黒々としている。あまり目付きがいいとは言えないが、じぃっとみつめてくるから少しむず痒い様な気持ちになる。
谷川が額を押さえている。どうした頭が痛いのか?

「……今井さん、そいつが伊藤です」

俺は盛大に牛乳を噴き出した。

***

「馬鹿だなぁ、今井くん」

「ス、スマン……い、伊藤 ?」

「うん。僕イトーチャン、よろしくね」

にこりと。
そう、にこりと。他人の口から出た牛乳を真正面から受け止めた伊藤は加害者の俺に向かって笑顔を見せている。
あまりの惨状に更衣室のシャワーを使う事を許され、そんな事態を引き起こした張本人として責任を取る為に案内役を買って出た俺は今、シャワー室で伊藤に馬乗りされている。
はて馬鹿とは。
たった今馬鹿と言われたが、俺のどの行動もしくは言動に対しての馬鹿なのだろうか。
牛乳を噴き出した事か、ぶっかけた事か。それとも石鹸踏んで転んだ事だろうか。しかも伊藤を巻き込んで。そこからのこの馬乗りなのだが、伊藤に俺の上から退く気配がない。俺の腰はしっかりと両の太腿で挟み込まれている。
なんだろう嫌な予感しかしない。

「今井くんさぁ、聞いてないの?俺のこと」

面倒臭いとブレザーだけ脱いでシャワーを浴びた為に、白シャツが肌に貼り付いて微妙に透けている。水に濡れて首元に纏わり付いた長めの黒髪が開かれた第一ボタンから襟元へ忍び込むように流れ落ちていて、なんというかその部分が女の子の様に見えた。

「い、伊藤の、事……?」

不謹慎な事を考えていたので返事がしどろもどろになってしまう。男相手に女の子とか、なんだそれ。タッパもあるし肩幅だって普通に男だ。しかしなんでだろう、妙に艶めかしい。さっきはあんまり良くないナ〜くらいに思った目付きが下がり眉と相まって、何だかこっちに訴えかけている様な、有り体に言えば物欲しそうな表情で。半開きの口とか赤くてツヤツヤした唇とか時々覗くピンクの舌とか。その舌がペロリと上唇を舐める様がまるで捕食者のようで。あれ?喰われるのは俺か?

「お、男が好きとか?」

「知ってんじゃん」

やっぱり馬鹿だ。
そう言って、図体はデカいくせに指一本動かせずにいる鈍間な餌に喰らい付いてきた。

「……ぅ、ん、んむぅ……っ」

うぅぅ、獣めチクショー。キス超きもちいい。
まさに噛み付く勢いで唇を奪われた俺は、ぬるぬるした粘膜に何度か撫でられただけで呆気なく口内に舌の侵入を許してしまった。何という手練れ。その後も上顎や舌裏を強弱をつけて擦ったりくすぐったりされて神経が敏感になっていくのがわかる。果たして口の中とはこれほどに快感を拾える器官なのかと驚く。

「っは、……ふふ」

んちゅ、とかぷちゅ、みたいな音を立てて離れていったと思ったら涎まみれの唇でキレイに弧を描いた伊藤が嬉しそうに笑った。

「今井くん、勃ってるね」

き、きもちいいからな。あんまり見ないでくれないか。

「赤くなっちゃって、可愛い奴」

いつの間にか床タイルに押し付けられていた両腕を筋に沿って指先でなぞられる。それが手のひらにたどり着いたら今度は両手とも恋人繋ぎにされた。
な、なんだ。次は何が始まるっていうんだ。
ぎゅうっと伊藤の太腿の感触が強くなる。しっかり詰まった肉の弾力を感じる。腹の辺りにあった伊藤の腰が俺の一物に触れるところ迄下がってきた。

「やっぱり大っきい」

にっこり笑顔でなんて事を。
太腿と同じ様に張りのある、しかし柔らかさも兼ね備えた臀部が俺のちんぽをやわやわと包みこむ。腰を上下に動かされてびくりと身体が跳ねた。気持ち良さが半端なくて自ら腰を押しつけたい衝動に駆られる。

「最後まで、出来そうだね」

欲情しきった、うっすら桃色に染まった顔が近づいてきて再び唇をふさがれる。今度は無遠慮に押し入ってきた舌が俺のそれをすぐさま探り当て、表面同士を性急に擦り合わせてきた。ぴったりと吸いついて互いを味わうことになり、伊藤の興奮が荒い息遣いと共に伝わってくる。
いいように口中を蹂躙されている俺だが、もうこれ以上好きにさせる訳にはいかないと思った。最後まで、とはもうそういう事だろう。となれば尚更である。
ぐぐ、と繋がる両手に力を込める。
異変に気付いた伊藤が顔を上げる。

「逃がさねーよ?」

小首を傾げながらも油断なくマウントを守っている。強いと聞いていたが確かに隙がない。
ふふふ、だが俺は物凄い馬鹿ヂカラなのだ。

「逃げるわけではなぁーいっ‼」

「うっわぁ⁈」

軽々と、とまではいかないが全身の力を総動員して体勢をひっくり返し、慌てた様子で手足をばたつかせた体を押さえ込んだ。がしりと四肢を拘束された伊藤は、いまだ上気した顔で恨めし気にこちらを見た。

「…なぁんだ、イケると思ったのに。今井くん物凄い馬鹿力だねー。折角タイプだったのに残念」

「……男子たるもの……」

「ん?」

「男子たるもの、されるがままなどあり得ん!」

「え。なに?」

「好きだ!」

「えぇっ⁉…んぁ、んんーっ」

そう、俺は伊藤を好きになってしまった。というか今思うと一目惚れだったのかもしれない。あんぱんと牛乳を貰ったあの時から。
じっとみつめられて感じた胸のむず痒さも、身体の妙な艶めかしさも触れ合う肉や粘膜が全然嫌じゃないのもそう、好きだからだ。
そうなるともうされてるだけと云うのは俺の中の男の美学として有り得ない事となった。男子たるもの好いた相手に全てを任せるなんて事、あってはならないのだ。
というか素直に言うと、もっと触りたい、触って欲しい擦りつけ合いたい!
俺は今さっきまで伊藤にされていた口付けがとても気持ち良かったのでがむしゃらに唇を合わせ舌を突っ込み伊藤のそれに押し付けた。
間近にある目が真ん丸に見開かれ驚きをあらわにするが、すぐにとろりと溶けて俺に焦点を合わせる。深い黒が涙で潤んでとても綺麗だ。その黒が薄桃色に染まった目蓋に覆われ見えなくなる。控えめだけど長い睫毛が細かくふるえて可愛らしい。
くちゅくちゅと水音が大きくなって、伊藤の口元から二人の唾液が堪えきれず流れ落ちていることに気付く。拭ってやろうと思って、そういえば自慢の馬鹿力で目一杯押さえ付けていたのを思い出した。

「スマン伊藤、痛かったか?」

慌てて体を浮かせ顔を覗き込む。
ーーーエロい。
ぱかりと開いた口から真っ赤な口内と濃さを増したピンクの舌が見える。伊藤が何か喋ろうとするのでゆっくりと蠢くその舌が性的でどうしようもない。

「今井くん、はげしい……」

喋るともっと性的だった。
俺はもう本気でどうしようもなくなってしまった。ズボンをぎちぎちに持ち上げる股間を伊藤に擦り付けたくて押し込みたくて腰ががくがくと揺れた。その己れの意思ではもうどうにも出来そうに無い腰へ、ぬうっと伊藤の片脚が伸びてきて巻き付いた。
またしてもあの柔い媚肉にちんぽが包まれる。

「……っう、うぉ…!」

駄目だった、もう辛抱堪らんかった。
俺の腰は止まる事を知らなかった。
伊藤の尻の狭間へ何度も何度も竿を擦り付けた。
もちろんズボンなど脱いでいない。興奮しすぎて脱衣を忘れてしまった。我も忘れた。伊藤の声が断続的に聞こえたが、ただ無我夢中で腰を振って振って振りまくった。最後に亀頭を伊藤の会陰へぐりぐりと押し付けた。
吐精した。最高に気持ち良かった。
賢者タイムはコンマ数秒できた。

「今井くん、童貞……だよね」

パンツの中身と一緒に体感温度が一気に下がるのが分かった。



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