今日俺
□落日
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落日
西の空が燃えている。
あれは沈む太陽か。
大気をゆらりゆらりと歪ませながら、周囲にあるあらゆるものを引きずり込もうとしている。
燃え上がる灼熱。
オレンジの炎。
無音であることが不思議な程の存在感。
触れてはいけないもの。
近付く輩は容赦無く焼き尽くされる。
絶対に届かないのだ。
手に入れること等もってのほか。
そう在るべきもの。
誰の手にも―――。
気が付くと濃い群青の雲が夕日を覆い始めていた。
無遠慮に太陽を己の視界から隠そうとするその雲に苛立つ。地平線に沈みきる。その瞬間を見るだけでいいのに。
何故それさえも許されない。
やめろ。
やめろやめろやめろ。
一体どうしてお前が俺の視界に入ってくるのか。
あいつが見えない。そこから退け。邪魔だ消えろこの世から存在ごと。
頼むから消えてくれ。
―――――。
辺りは真っ暗で、方角も分からない。己は何処へ行くのか、何処から来たのかすら。
おそらく空だと思われる、重力に逆らわなければ見ることの出来ない天上に首を持ち上げても。
月も星も見えない。
訝しんだが少し考えて納得した。
奴等はこれ見よがしに、己は太陽の光を映すのだと人の頭上でそれを晒す。
そんな誇らしい笑顔など見たくない。
見えなくていいのだ。
この光の射さない暗い場所こそ自分の棲む場所なのだろう。
地下で生きる目の無い魚。色素も抜けきって俺と揃いだ。
お前などいらないと、視界を自ら排除する退化に柄にもなく感動した。
俺はそれを進化だと思った。
だが俺は進化も退化すらも出来ないちっぽけな人間だった。
暗闇から這い出て。
愚鈍に太陽を追う。
あいつに何を求めているのかなど自分でも解らない。
手が届きそうに思える、沈みゆく太陽が好きなだけなのだろう。
了