今日俺
□ハロウィン終わった(注:題名)
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それは夜中にやってきた。まだぎりぎり日付は変わってなかったけれど。
ハロウィン終わった!(注:題名)
「トリックオアトリート!」
「………なに、三橋。こんな夜中に。」
窓に石ころぶつけられて、寝入り端を起こされた。自然声は不機嫌になったが、目の前でちぢごまる金髪は恐縮しているわけではない。単に寒いのだ。
「いとー、寒い。中入れてー」
まったく悪びれもせず、人の質問にも答えず、要求してくる。
……本当に我が儘なやつ。
…だが、俺はこの男のこういうところに愛想を尽かせない。何故と訊かれたら色んな意味で困るのだけれど、初っぱなからこうだった。
しぶしぶ部屋に招き入れ、温かいココアを与える。三橋は美味そうに3杯も飲んだ。手鍋で多めに作って良かった。1杯ずつ作ってたらとんだ手間をかけるトコだった。
「いや〜、今日って色々貰える日だったんだろ?学校で聞いたのさっき思い出したから、日付変わる前に来た。てことで、なんかくれ」
――ほんっと我が儘だなこいつ。
ハァと溜め息を吐く。
「ココアやったろ!それに貰えんのは子供だけだ!」
「エー、俺まだ子供じゃん。10代だぜー」
「んなに育ったら子供を名乗る資格は無い!理子ちゃん、良くんならまだしも、お前は今井も子供に含める気か。それに仮装もなんもしてねーじゃねーか。手ぇ抜きすぎだ馬鹿。」
一気に喋ってフンと鼻を鳴らした。いつも甘い顔してたらドコまでつけあがるのか。考えただけでも恐ろしい。たまには俺も反発するということを教えてやらねば。
「……ココア飲んであったまったろ?家帰、れ…っ……!」
「じゃあ俺、色魔〜」
どすっと、180超えの男が飛びかかってきた。衝撃を予想して恐怖を感じたが、倒れ込んだ場所はベッドでほっとした…のも束の間、にんまり笑う三橋に嫌な予感を覚える。
「つーかお前甘すぎ。そんなんじゃ菓子持ってかれるし、いたずらもされほーだいだぜ」
「………ッ」
べろりと首筋を舐め上げられる。背中をぴりぴりと電気が走った。
「ほんっと俺以外につけこまれんじゃねーぞ、隙だらけなんだよお前」
「んなコトねーよっ!」
どうにも性感帯に触れられると弱くて、力が出ない。でもこのままじゃ我が儘色魔に襲われるのは確実だ。
だが今は阻止したい。
俺は、断固、隙だらけではない。
この攻防はたった今勝負になったのだ。
「絶対負けねー!」
「うぉっ!」
闘志に火を付けて快感に持っていかれそうな自分を打ち消し、全力で三橋をひっくり返した。
勢いで上にまたがる。いわゆるマウントポジションだ。
驚いて目をまん丸くする三橋の顔は、意外に可愛くて一瞬見惚れてしまったが、そんな場合ではない。
「俺は、隙だらけなんかじゃない!泊まってってもいいからすんのはナシ!手ぇ出してきたら俺が色魔になって返り討ちにしてやるからな!」
勝負には負けられないのだ――!
力をこめて睨む。
「……泊まってってもいいのか?」
「それはいい。」
「朝食付き?」
「……仕方ない、母さんに頼む」
「一緒の布団に入ってもいいか?寒い。」
「………べつにいいけど。」
「手ぇ出しちゃダメ?抱き枕くらいはいいだろ?なんもしないから」
「………」
「絶っ対ぇなんもしないから!誓う」
「……じゃあいい…けど。」
あれ、なんか、三橋がまた調子に乗ってる…。
俺なんで勝負始めたんだっけ?
三橋の隙を突けたから勝ったんだよな?
「おやすみー。」
ひょいひょいと俺の下から抜け出し消灯し俺を抱き枕にして、三橋はあっという間に寝付いてしまった。
すやすやと耳に聞こえる健やかな寝息……。
なんか俺、負けたっぽい?
ていうか流されまくった?
こいつの目的って結局なんだったんだろ……?
でもまあ悔しさはなく、次いでやってきた睡魔にはあらがうすべもなかった。
金髪の悪魔…色魔だったっけ?に抱き枕にされたりしたりして眠るのは割りと心地よかった。
おわり