夢物語置場
□天体観測
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その日はとても、とても寒い夜だった。
だからこそ、天体観測には最適な夜だった。
天体観測
「う〜さっぶい」
そう呟きながら、ノルは望遠鏡を持って裏庭にやってきた。
冷たい風が吹いていて、寒さに体を縮めるノルの横を過ぎていく。
真夜中の裏庭は少なくとも1人は誰かがいる昼間と違って、余計にさびしさを増していた。
ノルの吐く息も、真っ白になって消えていった。
「おぉ〜やっぱりいい天気、これだけ綺麗なら探しやすいや」
誰に聞かせるわけでもない独り言をつぶやきながら、ノルは準備にとりかかった。
そう、今日は天体観測をしに来たのだ。
まぁ、望遠鏡を持ってきているのだからそれは当たり前なのだけれど。
「さて、今日が一番よく見える日だったはずだけど…っと」
望遠鏡を準備しながら、ノル はふと、みんなはもう寝てしまったのだろうか、と思った。
ミリテス皇国軍との戦いを繰り広げ、候補生も戦場に繰り出される今、やすやすと遊んではいられない。
それは戦いの中心になってきている0組も同じで、明日はまだ作戦当日ではないものの、休めるときに休んでおきたいのは同じだった。
1人で見るのは少しさびしい気もしたけど、こんな真夜中に誰かを起こしてまで行くものでもないなと思ったノルは、こっそりと寮を抜け出してやってきたのだ。
着々と準備を進め、さて始めるかと思った時だった。
後ろにある0組から裏庭へ続く扉がギギィと開く音がした。
「あぁ?なんだよノルじゃねぇか、コラァ。なにやってんだ、ああん?」
やってきたのはナインだった。
ナイン。0組一の問題児。課題もまともにこなさず、授業はバックれるという、クラサメ隊長の頭を悩ませている人物。
オリエンス4大国が言えることが自慢らしいが、前にクラサメ隊長に当てられて言ったときは、めちゃくちゃなうえに3大国しか言えてなかった。
しかし戦場では別で、槍で豪快に攻撃を繰り出し、敵をなぎ倒していく姿は圧巻である。
そんな彼が、どうしてここに来たのだろう?
「ナインには関係ないじゃん。それにそっちこそ、こんな夜中に何しに来たのよ」
ノルは少し突き放すような口調で言った。
実はノルは、あまりナインが好きではなかった。
態度や振る舞いの悪いナインを見ていると、根が真面目のノルはなんだかイライラしてくるのだ。
そんなナインを、最近見かけるたびに目で追ってしまったりしている。
イライラするけど、なんだか放っておけないような…
そんな話は別として、ナインがここに来た理由はなんなのか?
「あ?べっつに、大したことじゃねぇよ。ノルがさっき、寮から出て来るのが見えたからな、こんな時間に何しに行くのか、気になっただけじゃねぇかよ」
それを聞いて、ノルはとてもびっくりした。
男子寮と女子寮は隣同士だが、一応別々である。
だから、女子寮からこっそり出てきても、気づかないはずなのだ。
「……見てたの?」
「あぁ、まぁな。ってかおめぇは何しに来たんだ、オイ?その前にある機械はなんだよ」
そう言って、ナインはノルの前にある望遠鏡を指差した。
「見て分かんないの?天体観測だよ、天体観測。星を見に来たの」
「星ぃ?んなもん見て何が楽しいんだ、コラァ。ただの点々じゃねぇか」
「星は確かに点々だけど…他に言い方があるでしょう?それに、今日のメインは星じゃないの」
ノルはそう言って、ノルはナインから目を離し、また準備を始めた。
きっと今の話で、ナインは興味を無くし、寮に帰っていくだろう。
それが本望なはずなのに、なぜだかノルはさびしく感じた。
どうせなら、いてくれた方が…
「星じゃねぇのか?んじゃあ、なんだよ?」
珍しくナインは興味を持ったらしく、さらに聞いてきた。
ダメもとで誘ってみようかなと思っていたノルは、これを機会にし、
「準備が終わったら、見せてあげられるけど……見たいの?」
と言ってみた。
どうせ、断られるだろうと思った。
しかしナインは、
「おぅ、まぁひまだしな。仕方ねぇから一緒に見てやるぜ、コラァ」
と言い、準備をしていたノルの横にどっかりと座った。