Novel
□低体温 (絶逸)
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「そういや、アンタって冷たいよな」
保健室の長椅子に座る絶花の口から不意に出た言葉。
そのあまりの衝撃に逸人は持っていた湯呑みを床に落とした。
「え…僕、何か冷たく思われるような事とかしましたっけ…」
いつも以上に青ざめて落とした湯呑みを拾いながら、必死に自分の今までの行動を振り返っている逸人に絶花が歩み寄る。
「いや、性格の話じゃなくて体温の話」
「ああ、そっちですか」
絶花の言葉に逸人はホッ、と胸を撫で下ろした。
「よく言われます。でもそれで不自由した事は無いですし、特に気にもしていませんでした」
「あー、まぁ手が冷たいやつは心が温かいって言うしな」
「ふふ、そうですね…………え?」
突然固まった逸人。
怪訝そうに絶花が首を傾げる。
「おい、どうかしたか?」
逸人の前で手を振ればハッと我に返ったように目を見開き、あわあわと慌てて顔を赤くした。
「い、いえ!!何でもないです。気にしないで下さい」
「ならいいんだが…」
絶花はまだ納得のいかないようだったが、特に問いただしたりはせず逸人が煎れたお茶をすすった。
『さっきのは一体何だったんだろう…』
さっきの絶花先生の言葉が 何故だかとても嬉しくて
(あー、まぁ手が冷たいやつは心が温かいって言うしな)
頭の中でリピートされる
リピートされる度に胸がむずがゆくなる
『低体温で得したの、初めてかもしれない』
自分で顔が緩むのが分かった
「おい、何にやけてるんだ」
「すみません。ただ、幸せだなと思いまして」
「は?」
僕の冷たかった手はお茶の入った湯呑みで少し温かくなっていた。
end.