Novel
□モノクロアクト (冷逸)
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…つ…と…
…いつ…と…
逸人
名前を呼ぶ声
ゆるゆると瞼を開く
上半身を起こして辺りを見回すが
ただ一面に黒があるだけで人の姿はない
空耳か?
『後ろだ 逸人』
さっきの 声
導かれるように振り返る
一人の男が視界に入る
「冷血…?」
僕と同じ姿をとった冷血が
僕の後ろに立っていた
別段驚く事でも 珍しい事でもない
冷血が夢に出てくる時はいつもこの姿
「なんだよ冷血、何か用か?」
煩わしげに立ち上がると、ちょうど冷血と同じ目線の高さになる
けれどその目はいつもと様子が違っていた
いつもと違ったその表情に、思わずこっちまで緊張してくる
「今日は何なんだ、冷血。何か話したいことでも「逸人」
僕と同じ声で、話を途中で遮られる
その声に 普段の冷静さは無かった
沈黙
しばらくして冷血がおずおずと口を開いた
「逸人、俺は今までお前の感情を喰ってきた。様々な感情をな。だから、俺自身の感情なんてはっきり言ってどうでもよかった。ただ食事にありつければいいと思っていたんだ。…それなのに 最近の俺はおかしい。
何かもやもやしたものが、俺の中からじわじわとせりあがってくる。
この感情はなんだ?この焦燥感はなんだ?
考えて、考えて、考え抜いた。その末に出した答え。それは『恋』だったんだ」
何を言い出すかと思えば そんなことを
「ぷ…っ…くく…っ…」
「な 何がおかしい!!」
押し隠したつもりの笑い声が冷血にも聞こえていたようだ
すごい形相で、赤面しながら怒鳴ってくる
だって、病魔が恋?しかも冷血が?これは傑作だ
笑うしかないだろう
「で?その恋のお相手とやらは誰なんだ?」
治まらない笑いを必死に殺して聞いてみる
「それは、」
冷血の口が開きかけた時
ザアッ…
どこからともなく吹いてきた強風が、冷血の言葉を掻き消した
あまりの強さに顔を覆う
視界が風で揺れる
目が開かない
しばらくして、風が弱まったのを確認して目を開く
すでにそこには 僕しかいなかった
「冷血…!?」
名前を呼んでも返事は無い
ただただ黒が広がっているだけであった