Novel
□無意識が一番タチが悪い (絶逸)
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季節は真夏。
あまりの暑さに意識が遠のきそうになるこの季節に、しかもエアコンも扇風機も無い部屋で、事務仕事なんてするもんじゃない。
今は夏休みで カウンセリングルームには生徒が来ない。
だから雑用とか、そんなもんしか仕事が無い。
だからこうして他の先生方の仕事を手伝っているわけだが…
「なんでこんな時にエアコンと扇風機が同時に壊れるんだ…クソッ…」
そう、一時間程前に暑さに耐えかねてエアコンをつけようとしたが動かずじまい。
扇風機も同様の状態なのだ。
滝のような汗が流れる。視界が揺れる。
ああ だめだ、意識が蒙籠としてきた。
死にそうだ。
今日はもうやめてしまおうか。
いや、その前に窓を開ければいいんじゃないのか、俺。
思考力の低下した頭でぼんやりとそんな事を考えていた。
その時
「いっ…!!」
ピッ という皮膚が裂ける音がして鈍い痛みと鉄の臭いがじんわりと広がる。
視線を指へと落とすと、そこには確かに赤い出血が認められた。
カッターで切ってしまったようだ。
「チッ…」
小さく悪態をつく。
怪我をした事もそうだが、何より、傷を見た瞬間真っ先にあの養護教諭の顔が頭に浮かんだ自分に無性に腹がたった。
いや、何もわざわざ保健室に行くことはない。
今日の朝、俺は何を思ったかカバンに絆創膏を入れてきたのだ。
我ながらよくやったと思いつつカバンを漁る。
が、どこにも絆創膏は入っていない。
ー何故?
今朝の自分の行動を振り返ってみる。そして思い出す。
カバンに入れたつもりの絆創膏は、あろう事か自宅の机の上に置き去りだ、畜生。
とりあえず早く出血が止まることを願って傷口をティッシュで押さえてみるが 10分、20分経っても一向に血が止まる気配は無い。
むしろ悪化しているようにも見える。
本当に今日は最悪な日だ畜生め。
結局保健室行きじゃねぇか。
はぁ…
俺の人生の中で一番長いんじゃないかと思う程のため息をついて、重い腰を上げる。
熱気のこもったカウンセリングルームのドアを開けると、外の空気は幾分か涼しい気がした。