Novel

□結び桜
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そっと手を伸ばし、ドアを開ける

慣れてしまったはずの消毒液のアルコールの臭いが、妙に鼻を突いた
何気なく座ったイスがギシリと音をたてた


慣れ親しんだ保健室を改めてぐるりと見回してみる


そこは いつもと変わらない保健室


今は、生徒は滅多に利用しない場所ではあるが


きちんと並べられた消毒液も 絆創膏も 
きれいに整えられたベッドも
全てが全て 使われずに出番待ち


ふと視線がある一点で止まる
視界に入ったのは窓際のベッド

「…懐かしいなぁ」

そのベッドは以前、ある一人の生徒が頻繁に使っていた場所だった

実は彼は授業をサボるために保健室に来ていたのだが、そんなこと、僕はどうだってよかった

保健室に来てくれるだけで
それだけで嬉しかったから

けれど 時を重ねるごとに僕の彼に対する気持ちは変わっていった

彼が来るのを毎日心待ちにして
彼の笑顔を見る度赤面し
彼の事を愛しく思い


そんな感情を抱く度に 僕は僕に言い聞かせた
『藤君は生徒、僕は先生』と


今、彼はどうしているのだろうか
何をして 何を思って暮らしているのだろうか 
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