頂き物

□「夏祭り」(保神/相互記念)
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絶花の家。
出された浴衣に、派出須は困惑の色を浮かべた。
「どうした?」
「これ着て、どこに行くんですか?」
「今夜、近くで祭りがあるんだ。どうせなら浴衣の方が風情も楽しめるしな。
…なんだ? しかめっ面して」
「お祭り…あんまりいいイメージなくって」
「は?」
首を傾げる絶花に、派出須は言った。
「だって…お祭りっていえば…
鈍に言い寄ってくる男、それをぶっ飛ばす経一、
その騒ぎで被害を受けた出店に謝ったり、ヘタしたら弁償ついでに手伝ったりする僕、っていう…そういう思い出しかないんです」
「…アンタって天然の割に苦労人だよなあ…」
恋人の思い出に絶花は苦笑を浮かべた。
「でもこれは命令だ。着ろ」
絶花の断定の言葉に、派出須は諦めの溜め息をついた。

「嫌がってた割には着つけは出来るのか…。
…まあまあ似合うじゃねぇか」
「そうですか? 
絶花先生も…なんか雰囲気が変わって…カッコイイですね。
なんか…照れくさいです」
派出須は濃紺に白の七宝柄、絶花は黒たて絣。
どちらも互いの雰囲気に合っているせいか妙に色っぽい。
特に派出須はその細い体が余計に強調されて、そうなるだろうと
ふんでいた絶花でさえやたらとその細腰に目が奪われた。
「でも…なんかジロジロ見てますけど…どこか変ですか、僕…」
自分に自信のない派出須はすぐに悪い方へと解釈する悪癖がある。
絶花は手を伸ばして、その細腰を抱き寄せた。
「…似合うって言ってんだろ。行くぞ」


絶花の家から、十分も歩かないうちに祭り囃子が聞こえてきた。
それと前後して人の流れが多くなる。
本当に苦手意識があるらしく派出須の足取りが重くなった。
「ほら、ここでも掴んでおけ。
逸れるぞ」
絶花の浴衣の袂を指差され、派出須は顔を赤くした。
「へ、平気です。
迷子になんてなりません…って、わわっ」
前後左右からあちらこちらへ向かおうとする人の流れに入り、派出須は
すべての人を避けようとして結局立ち往生してしまう。
「ったく。ほら、こっちだ」
そんな派出須の右の手首を取って、絶花は人の流れに乗った。
腕を掴まれたまま、派出須が恋人の顔を見ればニヤリと笑い返された。
「なにか気になる店があったら言えよ」
「…はい。あの…手…」
「これだけ混んでるんだ。周りになんて見えちゃいない、気にするな」
そう言われたらもう何も言えず、派出須はぎこちなく周りの店へと
目をやった。
しかし結局目を奪われるのは通りすがる人たちの楽しそうな笑顔。
「…ホントだ。
お祭りって楽しいもんだったんですね…知らなかった。
みんな…すごくニコニコしてる」
そう言っているお前こそが極上の笑みを浮かべている、と絶花は思う。
連れてきて本当に良かった、と。


実際のところ、普段の白衣姿は悪目立ちする事が多いが、今日の派出須はスタイルの良さがはっきりとわかる浴衣のせいと
ぎこちなさのない微笑みのせいでそれなりに分かりやすい「イケメン」に見えた。
それが嬉しそうにキョロキョロとまわりを見ている姿はそれなりに可愛らしい。
190を超える男を可愛いと思ってしまう自分に絶花は苦笑を浮かべる。
「食いたいものはないのか?」
「えーー…っと…」
そのまま続きの言葉が出てこない恋人に、予想通りだと思いつつ絶花は派出須を誘導して歩きだした。
「適当に買って、どこかで食うか。
二人で分けりゃそれなりに楽しめるだろ」
「…それがいいです!」


いくつかの出店を見て回り、焼きそばやイカ焼き、ついでにビールも買い込んで
出店のある場所から少し階段を上り、途中にある東屋に入った。
そこからは提灯や屋台を見て回る人の姿もよく見える。
風に乗って聞こえる太鼓や笛の音。
時折聞こえる、子供の歓声。
湿気を含む夏の空気も、それなりに風があれば心地いい。
「ほら、温かいうちに食うぞ」
そう絶花が声をかけても、派出須の視線は目の前に広がっている祭りの風景に注がれていた。
「こんな風にお祭りを見た事、なかった…。
みんな楽しそう…なんだかこうしているだけです」
「ったく、博愛主義者が」
やっと自分に向かった視線に、絶花は鼻を鳴らした。
「アンタの一番になるのには、そりゃあ苦労したが。
これからも一番であり続けるのも大変そうだな」
「え、なんでですか」
絶花の言葉に、派出須はさも不思議そうに目を丸くした。
「僕の中で絶花先生への気持ちってどんどん大きくなって困ってるくらいなのに」
「…こんなところで爆弾を落とすなよ」
派出須という男は、基本的に照れやなくせに、愛情表現などではかなり直球な言葉を投げかけてくるところがある。
それで何度心臓を鷲掴みにされた事か、と絶花は思い返した。
二人が居る東屋の脇の道は、似たようなカップルが居場所を求めて行き来している。
とてもじゃないが、ここで手を出したら派出須は怒るだろう。
はあ、と溜め息をつく絶花に、言葉の意味がわからなかった派出須が首を傾げた。
「…爆弾って?」
「…いや、なんでもない。それより、食うぞ」
「そうですね、いただきます」
ニコリと微笑みあって、それぞれ好きに手を伸ばす。
月明かりの下、白く光る派出須の笑顔。
少しだけ肌蹴てきた浴衣の襟元からのぞく細い首筋。
「あ〜、早く食いてぇ」
「え、どれですか?」
「ああ、違う違う。
家で食べるデザートの事だ」
「? 帰りにコンビニでも寄りますか?」
「…いいからとっとと食うぞ」
「?」
いきなりガツガツと焼きそばを食べだした絶花に首を傾げながら、
たった今恋人からデザート認定された事にまったく気付かずに
派出須はイカ焼きに口をつけたのだった。



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fuga様より相互記念に絶逸小説を頂きました!!
素敵な夏祭りネタに終始にやにやしてました←
相互&素敵小説ありがとうございました!!

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