Novel

□クレイジィ・レイン
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*虎徹さんが実家に里帰りしている間の話

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一雨の臭いがする



買い出しに行った帰り、不意に鼻をついた臭い。


それは例えるならば落ち葉が水に濡れたような、水臭いような、独特の臭いだ。


空を見上げれば案の定重く垂れ込む曇天。
今にも降り出しそうな天気だった。



『早く帰らないとないとまずいかな』



勿論傘なんて持っていないし、何より濡れるのは御免だ。



足早に歩きだす。




が、どうやら既に遅かったようで。




雨粒が一粒、二粒と次々に落ちてくる。
次第に強くなっていったそれはやがて本降りになった。



「…はぁ」



天気予報では今日は一日晴れだと言っていたのに。
何となく裏切られた気分だ。




どこか雨宿りできる場所は無いだろうか。




辺りを見渡して、適当に近くにあった店の軒下に入る。



「すぐにやめばいいんですけど」



空を見上げてぽつりと呟く。
とはいえ未だ雨の勢いが衰える気配は無い。
むしろさっきより激しくなってきた。






『…そういえば、』






前にも同じような事があった気がする。
ああ、そうだ。
あれは確かまだ虎徹さんと出会ったばかりの頃だった。



その日、僕はやっぱり傘を持たずに出掛けて雨に降られた。
雨宿りをしていたところに、たまたま通りかかった虎徹さんが傘を貸してくれたっけ。




『よおバニーちゃん!』
『こんなとこで何してんだ?』
『あ、もしかして傘持ってないとか?』
『しょうがねぇなぁ〜。ほら、一緒に入れてやるから来いよ』




笑いながら、僕を自分の傘に無理矢理引き入れたあの時の笑顔。

つくづく雨が似合わない人だと
半分この傘の下、仏頂面で思っていた。




「…は、」




自嘲気味に笑う。



僕は馬鹿だ。



今日もあの日みたいに、目の前にあの人が現れてくれたらなんて心のどこかで期待している。



彼が今ここに現れるはずがないのに。



「…本当に、どうかしてる」



たった数日虎徹さんがいないだけで、寂しくてたまらないなんて。



寂しくて 寂しくて
息が詰まりそうになってしまうなんて。






「早く、帰って来て下さいよ」






口から零れた呟きは依然響く雨音に掻き消された。




降りしきる雨の中、傘もささずに歩き出す。




冷たくて、寒くて、寂しくて





気づけば僕は泣いていた。






一雨は嫌いです
(遠くの貴方を想うと、僕は今にも泣き崩れそうになってしまう)




end.


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2011.11.4

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