Novel

□幸せの定義
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「虎徹さん、すみませんが髪を結んでくれませんか?自分では上手く結べなくて」



そう言ってヘアゴムを差し出せば「しょうがねぇなぁ」と笑いつつそれを受け取って僕の髪に手をのばす。


虎徹さんに髪を触られるのは好きだ。


手の平から地肌に伝わる体温。
髪を梳く長い指の感触が心地良い。

結び終わるまでのこの少しの時間も好きだ。



「バニーの髪ってサラサラだよなぁ。男なのに」

「えぇ、まぁ。シャンプーには気を遣ってますから」

「へぇー。俺とは大違いだな。女の子よりサラサラなんじゃね?」

「ふ…そんなことありませんよ」



多愛もない会話。
後ろで虎徹さんが後ろで笑っている気配がする。
こんなに小さなことでも幸せだと感じられるなんて今まで思いもしなかった。



「ほい、できたぜ」



虎徹さんの体温が離れる。
気づけば髪は結い終わっていた。
隠れていたうなじが外気に触れて少しひやりとした。



「ありがとうございます」



手を後頭部に回せば、真ん中より少し下の位置でまとめられた髪が揺れている。
それに触れると自然と顔が緩んだ。


今までにない幸福感が胸を満たす。
それは虎徹さんだからこそだろう。



「虎徹さん」

「んあ?」

「僕、すごく幸せです」



笑いかけると、虎徹さんもへらっと屈託のない笑顔を返してくれた。



その笑顔は眩しくて
見ているだけで幸せになれるような






そんな笑顔だった。







(その笑顔に いつも僕は救われるんだ)




end.

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