Novel

□寝起きドッキリ大作戦〜side.兎〜
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「皆さんおはようございます、バーナビーです。今回は僕の相棒、ワイルドタイガーに寝起きドッキリを仕掛けたいと思います」


マイクを持ってカメラに笑顔で、さらに小声で自己紹介する。
笑顔こそいつもと同じに見えるが、実はその裏でかなり不機嫌だったりする。


現在の時刻は午前5時。


低血圧の人間にとってこの時間は眠いし怠いしで正直かなり辛い。
おまけに撮影に合わせて2時起きだ。冗談じゃない。



『あー…帰りたい』



そんな内心を押し殺して、笑顔を張り付けてリポートを続ける。
…まぁ仕事だから仕方がない。
さっさと終わらせてさっさと帰ってさっさと寝ることにしよう。
それが一番だ。







きっかけは3日前。
いつもながらに唐突な、アニエスさんからの電話から始まった。


『今度は寝起きドッキリ企画をやろうと思うの。撮影は3日後、ターゲットはワイルドタイガーよ。いいわね?』

「ちょっと待って下さい。僕がリポーターですか?」

『そうよ。大いに盛り上げて視聴率を上げて頂戴』

「そんないきなり『とにかく!詳しい事は後から書類を送るから一通り目を通しておいて。それじゃあこれで失礼するわ』

「あっ、ちょっと!!」



ブツッ
ツーッ…ツーッ…



電話の切れる音が無情に響く。


「はぁ…」


受話器を置くとため息が漏れた。
撮影にあたって、心配なことが一つ。


「…寝起きドッキリってことは、早く起きるようだな」


起きられるかな…。
憂鬱だ。







そして今に至る。



油断をすれば欠伸をしてしまいそうだ。
集中しないと。



足音を忍ばせてホテルの廊下を進む。(僕らは雑誌のグラビア撮影という名目でホテルに泊まっている。けれど実際はこの企画の為に泊まっているのであり、撮影というのは真っ赤な嘘。ちなみに虎徹さんはこの事を知らされていない。)


ほどなくして虎徹さんの寝ている部屋の前に着いた。



「ここ、ですね。早速入ってみたいと思います」



カメラに一度向き直って、そしてドアノブに手を掛けて扉を開く。


カーテンは閉められていて、その隙間から零れる微かな朝日も室内を照らすほどではなく、暗い。
けれど確かに部屋の中心にあるベッドにはふくらみがあった。
虎徹さんはまだ寝ているようだ。


『なんだか、寝込みを襲いに来たみたいだな』


ふとそんなことを思っておかしくなる。


一ああ、いけない。集中しないと。


気を取り直して、そろそろと部屋に潜入。
足音をたてないように、ゆっくり、ゆっくりと。


「さて、ワイルドタイガーの寝顔はどんな顔なんでしょうか」


枕元に忍び寄って、顔を覗き込む。
カメラが寝ている虎徹さんの顔を映す。

が、ここで問題発生。


『うっ…!!』


薄く開かれた唇。
閉じられた瞼に、意外に長いまつげがふるふると小さく震えている。

その寝顔は年の割に幼く見えて


『かっ…可愛いっ…!!』


危うく鼻血が出そうになる鼻をとっさに手で覆う。
理性が飛びそうになる。
このままだとこの人を襲ってしまいかねない。
早く気持ちを鎮めないと…。


そんな僕を余所に虎徹さんが小さく呻いて寝返りをうつ。
その時


「ぅ…ん…バニー…」


寝言で、僕の名前が呼ばれた。


なんという不意打ち。


なんとか立て直そうとしていた理性が、僕の中で大きな音をたてて粉々に弾け飛ぶ。
もうだめだ。


ベッドに乗り上げて未だ眠っている虎徹さんに跨る。
マウントポジョンをとられさすがに重かったのか、伏せられていた瞼がゆっくりと開く。


「んぁ…バニーちゃん…?」


まだ覚めきらない瞳。寝ぼけた顔。
まだ眠たげに目をこする仕草。
そのすべてが今の僕には毒だった。



「おはようございます虎徹さん。そして、」


いただきます。


「…は?え、ちょっ、バニーちゃ…ぎゃああああ!!!」




とある平日の早朝、ホテルの一室からは爽やかな朝に似つかわしくない、男の嬌声があがったそうな。



(朝から可愛すぎる虎徹さんがいけないんですよ!)

end.
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