Novel
□Take my hand.
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「おっ」
街中を歩いていると虎徹が何かを見つけたように声をあげた。
「どうしたんですか?」
「バニーちゃん、あれ見て!あれ!」
虎徹が指差す先を、隣を歩いていたバーナビーが目で追う。
その先に居たのは
「…カップル、ですね。あの二人がどうかしましたか?」
「いや、仲良いなーと思って」
怪訝そうな顔をしたバーナビーを他所に虎徹は柔らかく微笑んだ。
「俺も昔は友恵と手繋いだりしてたんだよなぁ」
過去を思い出しているのか、手を繋いで歩く二人を見つめる。
その横顔はどこか淋しげで
同時に今までに見たことがないような表情だった。
『確か奥さんを亡くしているんだっけ』
少し前に聞いたことがある。
もう5年も前の事だそうだ。
彼は一途な人だから、きっとまだ彼女を愛しているんだろう。
『別にそれでも構わない』
でも
それでも
僕と一緒の時くらい
僕だけを見てほしい
「一じゃあ、繋ぎますか?」
「へっ?」
口からぽろりと出た言葉。
驚く程自然に出たその言葉に主語はなく、虎徹はきょとん首を傾げた。
「繋ぐって何を」
鈍感な虎徹は気づかない様子。
バーナビーは自分の言ったことを振り返り、今更ながらそれに恥ずかしさを覚えたようで顔を少し赤く染めて、照れ隠しのように虎徹の手を取った。
「話の流れから考えて、繋ぐとしたら手しかないでしょう!!」
そう言ってそっぽを向く。
それでも握った手は決して離すことなく。
きょとんとしていた虎徹はしばらく握られた手を見つめていたが、しばらくしてへらっと笑った。
「バニーちゃんの手、冷たいな」
手の感触を確かめるように、にぎにぎと手の平を閉じたり開いたりする。
それを見たバーナビーの表情も緩んで、自然と微笑んだ。
「手が冷たい人は心が温かいんですよ」
「えー、それ自分で言う?」
この日、幸せそうに手を繋いで、白昼堂々公道を歩くワイルドタイガーとバーナビーがパパラッチに激写されたのはまた別の話。
end.