Novel

□女々しい男
1ページ/1ページ








「僕は貴方が好きなんです、虎徹さん」


今日も相方からの熱烈なラブコールが続く。
正面からきつく抱きしめられている形のため、正直少し苦しい。
それでも不思議と嫌じゃないのはきっと、俺もこいつのことが好きだからだろう。





でも こいつの告白にOKを出す訳にはいかない。





そりゃあ俺だってバニーのことは好きだ。
ライクじゃなくてラブの方。
愛したいし、愛されたい。
キスだってしたい。
できるならもっと先まで行きたい。



でも、駄目なんだ。



あいつにはこれからがある。
未来ある若者を、俺みたいな中年が引き留めていいはずがない。


バニーにはバニーの幸せがあるんだ。
その幸せを、俺が邪魔していいはずがない。



だから



「ごめんな、バニー。俺はお前の気持ちには応えられない」



こうやって突き放すんだ。



俺自身がお前を欲さないように。
お前が間違った道に進まないように。



お前が幸せになれるように。



「お前には俺なんかよりいい女の子がいるって」



そうだ、この世の中には可愛い女の子がいっぱいいる。
バニーちゃんに合うような子が必ずいるから。
だから早く俺を諦めて…





「…じゃあ、貴方は何故泣いてるんですか」

「へ…?」



指摘されて自分の頬に触れてみる。

いやいや、別に泣いてなんか



…ああ、本当だ。
なんで泣いてるんだろう。
俺はどうかしてるのか?



「どうせ貴方のことだから僕の未来が、とか考えていたんでしょう」

「べ 別に、そんなこと…っ…」



図星。
頼むからそんな無駄にハンサムな顔で見つめないでくれ。
何もかも見透かされている気がする。



未だ頬を伝う涙は留まることを知らない。
どんどん溢れてきてどうにもできない。





不意に唇に何かが触れた。
温かくて柔らかいそれがバニーの唇だと、俺が気づくのは遅くて。


「んぅ…バニ、ちゃ」

「僕が好きなのは虎徹さんだけなんです。他の人とじゃ、僕は幸せにはなれない」




貴方じゃないと駄目なんです。




なんて殺し文句だ。なんてキザな奴だ。
これだからハンサムは。


これだから、バニーは。


そんなに熱っぽい声で囁かれたら
もう断れないじゃんか。



「…本当に、俺でいいの?」

「はい」

「こんなおじさんでも?」

「はい」

「子持ちでも?」

「勿論。全部ひっくるめて貴方を愛します」



バニーがふっ、と微笑む。
改めて見ると本当に整った顔だ。
いっそ憎らしい。

こんないい男が俺に愛の告白をしているなんて、なんだか現実離れしてる。
そう考えると少し笑えた。


「ちょっと、何笑ってんですか」

「ん?別に〜?」


少しばかり不機嫌なバニーを抱きしめる。


「これからよろしくってことだよ!!」




ああ、さっきまで悩んでいたのが馬鹿らしい。
大体、悶々と考えるのは俺らしくないんだ。

女々しい俺なんて、俺じゃない。




今は結ばれたことをただひたすらに喜ぼう。


「ちゃんと幸せにしろよ?」


そう言っていつものように笑った。


end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ