Novel

□愛した記憶、貴方
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「ふっ…ぅあ…バニぃ…っ!!」



喘ぎ声が鼓膜を揺らして脳内に響く。
全身が麻酔に侵されて痺れるような錯覚を覚えた。


今まで幾度となく体を重ねてきたのが嘘のように、その甘美な声はとても久しぶりに聞いた気がする。


背中へ回されたその腕の温もりさえも心地良い。



「虎徹さん…愛してます」



耳元で囁いてそのまま彼の唇にキスを落とす。
舌を絡め取るように、咥内を蹂躙しながら深く、深く。


唇を離すと、焦点の合わない琥珀色の瞳が僕を映した。


恍惚に染まった表情。
きっとこれは、僕しか知らない彼。

独占欲 幸福感
どちらとも言えない感覚。

こんな気持ちさえ、僕はつい最近まで忘れていたと言うのだろうか。


「どしたの?バニーちゃん」


不意に聞こえた声。
我に返ると心配そうな顔で虎徹さんが見上げていた。


「いえ、何でもありません」

「そんなことないだろ?だって、今にも泣きそうな顔してんもん」


へらっと笑って僕の頭を掻き抱いた。
わしゃわしゃと乱暴に撫でられて髪が乱れる。
いつもなら「子供扱いしないで下さい」だとか「髪型が崩れます」とか言ってやるところなのだけれど、今日ばかりは心のどこかで安心感を抱いてしまった自分がいるのだから何も言えない。


「虎徹さん、」

「ん?何?バニー」

「僕は、怖いんです」


もし、また貴方の事を忘れてしまったりしたら。
記憶を無くしてしまったらと思うと。


無意識に涙が零れた。
塩辛いそれは虎徹さんの頬へと落ちた。


ああ、だめだ
止まらない



涙を流す僕に虎徹さんは少し驚いたような顔をして、そしてまた笑う。
今度は柔らかく、慈しむような優しい眼差しで微笑んで
幼い子供をあやすように僕の背中を軽くたたく。


「だーいじょぶだって!たとえお前が忘れちまっても、俺がお前のことをちゃんと覚えてっからさ」


その言葉とその笑顔につられて口元が緩む。


『この人のこういうところに惹かれてるんだ』




もう忘れたくない。
虎徹さんの全てを覚えていたい。
ずっと傍にいたい。



だから



今 この時間 この一瞬を
記憶に刻んで、忘れないように





愛した記憶を深く、深く






貴方を忘れないように。








end.

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