Novel
□しばし現にお別れを
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貴方の全てを奪い去ってしまいたい
貴方の薬指に光る指輪を見る度、そんな欲求が僕を掻き乱す
どうしようもない独占欲と激しい嫉妬が僕を狂わせる
おじさん、どうすれば僕は貴方の奥さんに勝てるんですか
どうすれば貴方の心を手に入れられるんですか
幾度となく繰り返した言葉
心の中で問い続けた愚直な質問
虎徹さんには届かない
すぐ横で健やかな寝息をたてて眠るおじさんの髪に触れる
汗で少し湿った焦げ茶色の髪が、窓からこぼれる月光に照らされて艶かしく光る
さっきまで激しく喘いでいたのが嘘のような、穏やかな寝顔
不意に呻いて寝返りをうった
そして何かを呟く
それを聞いた瞬チクリと胸が痛んだ
寝言のように紡いだ名前は、僕のものではなかった
大方奥さんの夢でも見ているのだろう
単純なこの人の事だから、大体予想はつく
でも、それが気に食わない
相変わらずすやすやと眠っているおじさんの額にそっと口付ける
「いつか貴女から虎徹さんを奪い取ってみせますよ、奥さん」
独り言のように呟いて布団に潜り込んだ
「おやすみなさい」
end.