Novel(捧げ物)

□世界一幸せ(保神/藤逸/相互記念)
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今日は日曜日
僕が一番楽しみにしていた日

時刻は正午
そろそろ彼が来るはずだ

「まだかなぁ、藤君」

落ち着いていられず、部屋の中をうろうろする


そう、今日は藤君が家に遊びに来る日で、もう一週間もこの日を待ちわびていたんだ


部屋中隅々まで掃除して、昼食の用意も張り切った
お茶も今日の為に新しいメーカーのものを選んでみた


時計をちらっと見てみる
時刻は12時5分



『ピンポーン』



インターホンが鳴った



「はーい、今行きまーす」


胸を踊らせながら返事をして、パタパタと玄関に向かう

ドアを開けるとコンビニの袋を提げた藤君が立っていた

「やあ、いらっしゃい」

「おう。これ、コンビニのだけど」

そう言って差し出された袋を受け取って藤君を中に招き入れる

僕の後について部屋に入って来る藤君を見て、ついつい顔がゆるんでしまう


付き合い始めて早半年
彼が僕の家に来るのは初めての事だ

最初は生徒と付き合うことに不安を感じていたけど今となっては彼の小さな仕草や行動すら愛しく思えてしまうものだから、これはかなりの重症だと思う


「逸人」

「ん?何?」

「あれ、なんて花?」

呼ばれて振り返ると、藤君がテーブルの上に生けておいた花を指さしていた


紫の 色鮮やかな花


「ああ、あれは藤の花だよ」

「藤?」

「うん、今日は藤君が来るからと思って買って生けてみたんだ」

「ふーん…」

藤君がしげしげと花を見て、しばらくして僕に向き直る

「なぁ、紛らわしいから俺の事は名前で呼んでくんねぇ?」


唐突な言葉に思わず思考が止まる
そういえば、彼を名前で呼んだことは一度も無かった


「えっ…でも…」


確かに慣れないということもあったけど、何より急に名前で呼ぶのはなんというか…恥ずかしい

なんとなく視線をずらしていると、藤君が僕の腰に抱きついてきた

「なぁ、呼んで?」



『卑怯だよ…』


そんな目で、上目遣いで見られたら
もう断れないじゃないか



「…麓、介?」

恥ずかしくて、それ以上に照れくさくて、小さな声で呼んでみる

「よくできました」

はにかんだように微笑んだその顔を見て、顔が真っ赤になるのが分かった



ああもう、恥ずかしさで消えてしまいそうだ



「逸人、」

「な 何…?」

「好き」


その口から紡がれた告白の言葉

さっきまでの恥ずかしさが一瞬で消えた気がした


「俺、逸人が好き。すげぇ好き。…逸人は?」


真っ直ぐな瞳で見つめてくる彼
答えなんて、とっくに決まっているのに



「僕も、好きだよ。…麓介のこと」



麓介の顔が幸せそうにほころぶ

そして実感する


『愛されてるなぁ、僕』




世界中探したって、今の僕ほど幸せな人間はいるだろうか




世界中に、これ以上の幸せはあるのだろうか







あったとしても
その幸せを、僕は知らない






僕の知っている最高の『幸せ』は
今 この時だけだから






end.

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