企画

□戦国乱世紅緑物語
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時は戦国乱世。
それは幾多の国々が競い合い、興亡を繰り返した時代。

そんな時代のさなか、ここにも一国を治める人物が一人。
彼の名は――――



「殿!!お待ち下さい、虎徹様!」
「待てって言われて待つ奴がいるかっての!ちょっと出掛けてくるだけだって!」



城内をバタバタと走り回る男とそれを追いかける家臣。

焦げ茶の髪を少しばかり滲む汗で湿らせながら、軽装の袴姿で廊下を疾走する男。
この城の城主であり、この国を治める主、鏑木虎徹である。


しかしこの男、主と呼ぶにはあまりにも―――


「殿!!まだ公務が終わっておりませんぞ!!お戻り下さい!!」
「公務?んなもん、俺には向いてねぇって何度言や分かるんだよ!!つかアントン、その喋り方やめろ!!幼なじみだろ、なんか気持ち悪い!!」


家臣のアントニオにふざけたように屈託のない笑顔で笑う。
歳のわりに幼く見えるその笑顔は無邪気。
いたずらを仕掛けて、それがまんまと成功した時の子供のそれだ。

そう、彼は殿と呼ぶにはあまりにも粗く、荒い。
荒いと言うよりは"適当"だ。
現に彼は今、全力で公務からの逃避をしている。
戦国大名は規律を重んじ、規則正しい者が大半であると言われているが、彼はまた別。

自由で、陽気で、情に厚く、優しい。
そして時折破天荒。
そんな気性からか、彼は城下街の人々から親しみやすい殿として好かれていた。


「殿…いや、虎徹!!いいから戻れ!!後々困るのは俺らなんだぞ!!」
「だーいじょぶだって!!気分転換したらすぐ戻ってくるから!!仕事はそれから!!」
「あっ、おい虎徹!!」


アントニオの叫びも虚しく、虎徹は空いていた障子からひらりと城の外へ飛び降りる。
―――ここは城の最上階付近。
アントニオがはっと息を飲んだ。が、あることを思い出して低い木製の孔子から身を乗り出す。

そこには案の定、蒼い光を纏った虎徹の姿。
今正に地面に着地した所であった。



虎徹には生まれつき特別な力がある。
一度その力を発動すれば身体能力が通常の何倍にも膨れ上がる。いや、何百倍だろうか。
とにかく幼い頃はこの力が上手く制御できずに城内の物をよく壊したものだが、今ではすっかり使いこなしてこの通り。
虎徹の毎度の脱走一役買うようなっている。



アントニオは思わずため息を漏らした。


「今日もまた逃がしたか…」


毎度毎度本当にあいつ…殿には敵わない。
…ああ、もうそれどころではない。
アントニオは城内に響くような大声で、他の家臣へ呼び掛けた。


「おい!!殿が脱走した!!捜索へ向かうぞ!!」












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