過去拍手文

□照れ隠し
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『照れ隠し』
※真咲さん視点






不意打ちにされるキスも嫌いではない。
もうと拗ねて、そういうのやめてと文句言いつつ。
それがなくなったら、ついに愛想つかされたかとドギマギするだろう。

それから、二人きりの部屋で、目と目が合って。
彼女がふわりと微笑み、私の頬を撫でて、ゆっくり近づきながら顔を傾けて。
壊れ物を扱うように唇を重ねてくる、そういうキスも嫌いではない。




「というか、好きですよね?」

「………」

「私とのキスならどんなものでも」

「いつからそんな自信家になったん?」





そう、と答えるのは癪だったから冷ややかな視線を鏡ごしに送った。

お風呂から上がって、洗面台の前でペタペタとお肌のケアをしているところに、これからお風呂に入るみりおが脱衣所に入ってきて「あぁ、そういえば」と話し出した。

あたしの冷たい視線はどうやらダメージゼロのようで、みりおは「あれ、いつからかなぁ…?」と、うーんなんて首を捻っている。

先日ついぽろっと、同期たちにやんやと詰め寄られ、みりおとのキスは「どれも嫌いじゃない」と言ってしまった。

それをご丁寧に、本人に伝えてくれたらしい。
で、みりおは「それは、真咲さんらしいですね」と無邪気な笑顔で返事してたと教えてもらった。

そこではそう返して話を終わりにしたくせに、家に帰ってきて、なんであたしが責められるんだ。




「別にいいでしょ?嫌いじゃない、なら」

「いえ、それは、好きでもないと捉えられます」

「嫌いを否定してるやん」

「好きを肯定したことにはなりません」




なに、この問答。
すいーっと視線をそらしたら、みりおは「めんどくさいと思いましたね、今」と、あたしの心を言い当てた。

こーなったら、思いきろう。鏡ごしだけど、みりおを真っ直ぐ見て、口を開いた。今から言おうとしていることに、胸がバクバクと痛い。




「みりおが知ってればいい」

「ん?」

「あたしがみりおとのどんなキスも好きって、みりおだけ知ってればいーの」

「………」




うわー。言いながらどんどん顔が火照ってくる。ごまかしたくて、歯ブラシを手に取った。

同期の前で、どんなキスも好きだなんて、言いたくなかった。
そういう言葉を聞いて良いのも、聞いて欲しいのも、みりおだけにしたくて。




「真咲さん、かわいいです」




優しく微笑んで、彼女は後ろからあたしのことを抱きしめた。
甘えるように、あたしの頬に頬を寄せる。




「あー、良い匂い」

「そんなことしてないで、みりおも早くお風呂入ってきたら?」

「今はくっつきたい気分です」

「あたしはハミガキしたい気分」

「…それは、照れ隠しですね」




クスッと笑う感じが少し悔しくて、鏡ごしではなく、隣をじとーっと見た。
みりおは柔らかく笑って、囁くように言った。




「大好きです」




胸が痛い。熱い。

みりおの視線が少し下に落ちる。
そっと笑ったら、フッと笑って、近づいてくる。

その艶やかな表情にはいつまでも慣れない。
伏せられたまぶたにつられるように、目を閉じた。

唇が重なって、慈しむように、下唇をちゅっとされて、ゆっくり離れた。

彼女を見つめれば、「そっか」と納得したようにみりおは笑った。




「…なに?」

「いつからかなぁと考えてましたが、最初からのようです」

「…え?」

「キスしたあと、真咲さんいつも、その瞳が潤むんです」

「………」

「そういう時、愛されてるなぁと感じるんですよ。自信家になったのはそのせいですね」




ほにゃっと笑って、うんうんなんて頷いている。それってさ。あたしにしては、めっちゃ恥ずかしいんやけど…。




「あぁ、でも、そう言いつつも、不安になることも多く…っ」




照れ隠しは、上手くならない。
そういうあたしも、あなたなら、好きだと言ってくれるでしょう?

この唇が離れたら、「仕方ないなぁ」って、あたしの好きな笑顔を見せてね、みりお。




END


パチパチくださりありがとうございました!



 

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