過去拍手文
□季節は…
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※みりおさん視点
「秋と言えばなんでしょう」
ずいぶん唐突に、仁王立ちになって両腕を組んでいる超綺麗なお姉さんが言った。
私はメガネをかけてソファーに座り、足を組んで、次の舞台の参考用に両手に単行本を持っているとこ。
真咲さんは朝シャンを浴びて来たところで、髪は洗面所で乾かしてきたらしい。
スッピンでも彼女は綺麗だ。
さて、真咲さんのなぞなぞのように出してきた問題に答えよう。
私はそもそも、今、その最中だし。
「…読書」
「ぶっぶー」
無表情で言われた。見上げると、真咲さんがじーっと私の目を見つめてくる。
あの頃とまつげの長さが変わらないのは、いったいどういうことだろう。
「すぽー…」
「ぶー」
「しょくよ…」
「ぶー」
最後まで言わせてもらえない…。
真咲さんを見つめ返して、降参というように、瞳をぱちぱちさせたら、彼女は「まったくもー」と言いながら、腕を解いて近付いてきた。
「可愛い顔しても教えへん」
「教えてくれないと気になるじゃないですか」
「んー」だなんて、曖昧な返事をしながら、真咲さんが私の組んだ足を解いてソファーの下に落とした。
その扱いがだいぶ雑。
ぺちぺちと私の太ももを叩いて、何やら「よし」とか言って。
「何ですか?」
「なんでもなーい」
そう言いながらも、真咲さんはごろーんと私の太ももに頭をのせた。
「うっわ。なにこれ、やせてるやん。きもちくないっ」
「文句言わないでください。昨夜私が同じこと言ったからって。あと、気持ち良くないとまでは言ってないです」
「ふーん」
「気にしていました?」
「気にした」
「ごめんね?」
「キスしてくれたら許す」
「…体勢がきついです」
ぽそっとそう言うと、真咲さんは「じゃ許さない」と笑った。
それが少し寂しそうにも見えて、心が震える。
「まさきさん」
囁いて、髪を指で梳いて、熱情を込めてじっと見つめる。
そうしたら、真咲さんは私を見つめて、手を伸ばし、私の頬を撫でた。
「好きって言うて、みりお」
「好きです」
「許したいねんで?」
「それはキスしてってことですか?」
「知ってるやろ」
「知ってます。あなたのことなら、なんでも」
真咲さんの頬を撫でて、その手を彼女の頭の後ろへ。
足を抜いて、彼女に覆いかぶさった。
彼女が望み、私が望んだキスを。
ちゅっとリップ音を立てて、啄ばむように口付ける。
少し離れて真咲さんを見たら、甘く微笑んで、私の頬にキスしてくれた。
「秋と言えば、何ですか?」
そう聞いたら、真咲さんはクスクス笑って、私の首の後ろに両腕を回した。
「もう答えなんて忘れた。みりおのことで頭の中いっぱい」
「ふふ。それじゃ、また今度教えて下さいね」
「ん」
「今は…」
「んー?」
「二人の時間を楽しみましょう」
口角を上げたら、彼女は恥ずかしそうに笑って。
答える代りに、触れるだけの短いキスをしてくれた。
冬に近付いていく季節は、なんだか少し切なくて。
この腕の中にある温もりを、心から幸せに思った。
END