◇刻ノ悪戯


□遠くの記憶:以蔵
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『今日はお祭りだぁ…』



私はカナちゃんと二人で屋台を梯する。

二人で一つを分け合いながら、色んな物をお腹に詰め込んで行く。
あっと言う間に楽しい時間は過ぎ、カナちゃんは待ち合わせた彼氏と一緒に人混みに消えて行った。



『私も帰ろうかな。』



そう呟いたら…強い風が吹き抜けた。

まるで帰る事を妨げる様に。

大体の屋台も店終いをしている。

ん?

私は今時珍しい屋台を見付けて近寄って行った。



『ん?お嬢ちゃん、悪いがもう店終いなんだ…』

『そうですか…。』

『…待ちなよお嬢ちゃん、これ持ち手が少し汚れて売り物にならねぇから、良ければ持って行きな!?』

『良いんですか?』

『あぁ。』

『ありがとうございます。』



私は店主に御礼を言って、それを見詰めた。

私の中で何かが疼いてる。

この店を見付けた時から何かもどかしくて…

何故かな?


カラカラカラ…


手に持った風車が優しい風を受けて回り出す。

何だかとっても懐かしい気持ちになった。

なのに…

私の頬には何故かとめどなく涙が伝う。

何故私は泣いてるんだろう?

そう思った時だった。


カラカラカラ…


再度強い風が吹き、風車を回す。

暫く回り続けたと思うと回るのを止めた。

何故か私の頬を伝った涙も乾いていた。

どうしてだろう?

何か出先で大切な物を忘れて来た様な気持ちと…
人の見えない優しさに触れた時の様な気持ちが私の心で芽生えている。


何だろう?

気が付けば、最近毎日来ている社の前だった。

習慣て凄い!そう思った。

五円玉を賽銭箱に投げて手を併せる。


カラカラカラ…カラカラ…


優しい風が髪を揺らして行く。



『…側に居る』



え!?

私は辺りを見回す。だけど誰も居なくて…

確かに今聞こえたのに…男性の声が…。

その夜私は夢を見る。

紅い瞳の彼は私を抱きしめていた。

ずっと…ずっと。

目が覚めそうになった時だった。

微かに彼から聞こえたその声は告げた。



『俺はずっとお前の側に居る。』


と、あの時の声で……


カラカラカラ…


目を開けたら、風も無い私の部屋で、風車は優しく回り…直ぐに止まった。


(完)

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