◇刻ノ扉


□煩い物には蓋を…:土方
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俺は背を向ける。

お前を未来に帰す事に決めたから。

お前を手放すと決めたから。

お前を愛してるから。

涙なんて見せられねぇだろ?

最後まで強い男として在りてぇんだ…悪ぃな。



『ひ…かた…さ…』



微かにお前の声が聞こえる。

きっと…

最後の声になるだろう。

なぁ、そっちでも俺を覚えていられるのか?

そんな都合良い事有るわけねぇ…な。

元気でお前が笑っててくれるなら、俺は後悔はね……


ガツン!!


『いっっっ!!』



頭に衝撃を受けた俺の足元には、見てはいけない物が転がっている。

俺はそれを拾い上げると、恐れながら社に目を向けた。

根付……。



『土方さんの馬鹿ぁぁぁっ!!』

『お…まぇ?』



………。

何してやがるんだ?

こいつは。


ガバッ…


駆け出して俺の胸にしがみつく。

グシャグシャの酷い面で。



『私はずっと一緒に居るって言ったじゃないですかっ!!』

『……。』



そうだ。

こいつはそういう奴だったな。

我が儘で…
危なっかしくて…
可愛くて…

俺は優しく強くお前を抱きしめた。



『痛ぇんだよ!こんな物頭に投げるな!……ったく。』

『だって……うっっ…』

『泣くなっ!?』

『うっ…ぅ』

『馬鹿は死ぬまで治らねぇ病だからな……どっちか死ぬまで…仕方ねえから一緒に居るか?』

『えっ?』

『俺もお前の馬鹿が移っちまったみてぇだからな。』



今まで見た中で…

一番綺麗な笑顔でお前は笑う。

この先俺に与えられる時間が短くあっても、俺は全力でお前のその顔を守ってやりてぇ。



『あれ?土方さんの頬濡れてる…泣いてくれたんですか?』

『あぁ、うるせぇ女だっ!どの口が言ってやがる?』



強がりながら

お前のその騒がしく愛おしい唇に蓋をした。


(完)

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