「ハンドレッドパワーで帰って来るから、なにがあったのかと思いました」


バーナビーが飛んだ眼鏡を掛け直しながら告げる

楓はバーナビーに100倍の力で抱き着いて、もう嫌だもう無理という弱音を繰り返した後落ち着いたのか半泣きだった目を擦りながらちょこんと座った


「だってパパに早く会いたかったんだもん」


なんて言われれば悪い気はしない
バーナビーはお湯で濡らし堅く絞ったタオルを楓の目元に当てた


「そうではなくて、普通握手などしてくるでしょう?だから……あああああ楓さんっ泣かないでっ」


一気に涙を量産する楓に自分が泣かせて仕舞ったのかとおろおろするバーナビー
その様子に、今まで黙って新聞紙を広げていた虎徹は耐えきれず吹き出した


「ぶふっ、バニーちゃんったら」


「笑ってないで夕飯でも準備して下さいよ!今日は楓さんの元気が出るものをって言ってたでしょう!?」


「よーし、じゃあチャーハンでも作っか!
楓、お父さんのチャーハンで元気出せ!」


「お父さんは黙ってて!!」


「はい…」


娘のヒーローデビュー直前にお気楽なものであるが、これでも楓のヒーローになる夢に散々反対したのは彼である
最初のうちは、楓もパパみたくヒーローになったりして!くくくっ
とか言っていたのだがそれが戯言でなくなる気配を感じるや否や断固反対の意を示した
それでも楓が意志を変えずに消防やら警察やらレスキューの実習を重ねる頃には、否定をしなくなったのだ
実父としていろいろと考えることがあるのだろう
最愛の愛娘、危険に曝したい筈はない
しかし娘の意志は尊重してやりたいし自立を遮る気もない
そんな葛藤をしながら、自分がワイルドタイガーだった時の妻の気持ちを想うのだ


一方でバーナビーは否定も歓迎もしなかった
ただ彼女の気持ちを肯定した
ヒーローとは危険なものなのだと厳しく諭した後は何も言わず、ただ楓の気持ちを受け止めた
そして、虎徹の気持ちも

ヒーローとして見ず知らずの人間を守って片脚を失った相棒を持つバーナビーは楓がヒーローになるというのに否定しなかった

ただただ楓の想いを肯定する姿はパパというよりママである

楓はこの美人なママのようなパパに本当によく慣つき、今では3人で、本当の家族のように暮らしている
父親離れは早かったが母親離れもパパ離れもまだのようだ


パパに対しては甘えんぼうの彼女も、
バディが出来たら少しは変わるかと思っていたのだが…



「本名は忘れちゃった!だってカタカナ苦手なんだもん!それにあんな嫌な奴!名前覚えるのさえお断りよ!!」


ご飯を炒める音の中で楓は先程あったことをバーナビーに叫んだ
せっかく握手してあげようとしたのに!!

バーナビーは苦笑する
自分達、タイガー&バーナビーが最初から仲が良い相棒だったわけではないからだ
最初はどっちも気に入らなくて、険悪だったんだよ
とは楓には言ったがまさかあそこまでとは思っていないのだろう

楓、メイプルキャットも命を預けて共に闘うようになればその相棒ともすぐに打ち解けられるはずだ

彼女はこれから成長する
まだまだ若い見習いヒーローが、これからどのような活躍を見せてくれるのか
バーナビーは微笑んだ




 

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