12/07の日記

01:04
造花と太陽(青黄)後
---------------
 
 

「オレ、青峰っちの隣にいて、いいんスか?」

「…勝手に離れたら許さねぇぞ」

バカみたいだ
本物だけで出来た青峰の世界に、偽物のオレが居てもいいのだろうか
この腕を、背中にまわしても、抱き締め返してもいいのだろうか

「花束じゃなくてムードとかねぇけどよ…」

「いいんス、嬉しい。これがいいんス、青峰っち…!」

やんわりと身体を離され唇に何かが掠めた

やはりオレは青峰っちの恋人らしい
そんなバカな、と思うが
もしかしてこれは恋人へのプレゼントで
もしかしてこの前のあれはデートで
もしかしてオレの冗談混じりに言った好きって言葉に青峰っちが「あぁ」って返したのがお付き合いの始まりだったのかもしれない

もしかしなくてもオレはこの人が好きで、大好きで、愛していて
この人もそれに答えてくれているのかもしれない


偽物の花と本物の花が並んでこっちを見ていて
爆破しろ、なんて思っているかもしれない



†END†


「水仙は雪中花とも言って、雪の中でも春の訪れを告げるんですよ」

「春の訪れ…、それオレっスか?」

「黄瀬君にはわからないでしょうね。あと、青峰君が君に渡したラッパ水仙の花言葉は、『持って生まれた素質』」


君はもとから、綺麗に輝く光なんですよ




 

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

01:04
造花と太陽(青黄)前
---------------
 
 
 


オレの髪は日の光を浴びてきらきらと輝くけれど
所詮は反射しただけの偽物だとわかっていた

ある日、本物の光を見付けて仕舞ったオレは

見るや否やあっさりと


その光に恋をした





●造花と太陽●





「おい黄瀬、付き合え」

恋人になってください、という告白では決してない

「えー、いいっスけど、何処にスか?」

「表通りのショッピングモール、とか」

告白だったらな、と思ったことはない

「とかってなんスか。つかヒト多いから目立たないようにしなきゃだから、一回家帰りたいっス」

だがまるで告白のようだと思い至るくらいには対象内でもある

「どうせなにしても目立つだろ、行くぞ」

それってもしかして、褒めてる?
よくわからないから否定も出来ずただちょっと照れた
この男の対象の範囲にオレは入らないことは重々わかっているから、期待はしない
こうやってちょくちょくオレを喜ばせる餌を寄越す人だから

この仕事をしていると、ぽっかりと時間が空くことがある
様々な職種のヒトが関わることだから調整などがそれなりの時間になる
本腰を入れたモデルの仕事と大学との両立はなかなか忙しくはあったが、たまたまぽっかりと時間が空いた
青峰は大学でも私生活でもバスケ三昧である意味忙しそうにしていたが、今日ちょうど、二人の時間がぽっかり出来た
バスケをするのかとも思ったが、しないらしい

この男がラインドショッピングというめちゃくちゃ似合わない趣味を持っていることは多分本人も気付いていないだろう、オレしか知らないことだ
幼なじみの影響だろう、時間が空くと(大抵はバスケをするのだが何らかの理由でバスケが選択肢に入らない時は)買い物をして時間を潰すのだ
スポーツ用品を中心にだが、服やアクセサリーを見たりカフェでお茶したりもする

本人も元凶の幼なじみも当たり前になっていたらしく、そんなおんなのこみたいな時間の潰し方に違和感はないらしい
そしてそれに付き合わされるのは、幼なじみが彼氏持ちになってからはオレの役目になった
だからこの趣味は、オレしか知らない青峰っちの秘密だ

バッシュやテーピングを見ながらあれこれ言ったり
テキトーに目に入った店で商品を物色する
買うことは余りない
見ていて、そういえばこれそろそろなくなるな、とかいうものくらいしか買わないし大体それはスポーツ用品で
百均に入ってそれを手に取ったのも、買わないものだと思っていた

「これ、お前みたいじゃね?」

「は?」

「ほら、色一緒だし、ははっ、似合うぜ」

耳の上あたりに手を持っていかれてどきりとする
頭に花を飾って似合うと言われて、どきりとする

「なんスかぁ?見えねぇんスけど」

まるで花屋の一角のように綺麗な色でいっぱいになっているこのコーナーの花は、枯れない
頭に掲げられた黄の色をしているだろうその花も、所詮偽物、造り物の

その造花を青峰はレジに持って行った
やるよ、と初めて貰ったプレゼントは105円の花だった
造り物の花だった

青峰が何故これをオレに寄越したのかはわからない
だがひとり家に帰ってそれを眺めるオレは相当に惨めだ
光に翳してみると、葉っぱの表面がつるつるしていて光を反射した
偽物の花が、まるで自分で光っているかのような我が物顔で光を反射している
模倣花が、光っている
オレは相当に、惨めだ



「あ、そういやこないだの花、ちゃんと大事にしてるか?」

ストバスの帰りにお邪魔した青峰っちのアパートで思い出したかのように尋ねられる
気まぐれだと思っていたが覚えていたらしい…そりゃあもう、大事にしてるよ

「大事にってあんた、わかってると思うけどあれ造花っスよ?水とかやる必要ないんス」

「んなことわかってるよ!捨てたりしてねぇだろうなってことだよ」

捨てるわけない
大事にしている

「造花だってわかっててよかったっス。捨ててないっスよぉ、青峰っちがオレに初めてくれたプレゼントだし」

「は?初めてだったか?」

「そうっスよ!」

見ているとつらかった
でも捨てるという選択肢はなかった
細いビンに水も入れずに生けてある
いつもいつもテーブルの上で光を反射している

「じゃあ次の誕生日になんか買ってやるよ」

「はぁ?別いいっスよ、ていうかオレの誕生日まであと何ヶ月あると思ってるんスか。絶対忘れるでしょ」

「あぁ?忘れねぇよ」

「寧ろオレの誕生日いつか覚えるっスか?」

「あー、あれだろ、ほら、…6月」

「あたりっス、すごいっスね!」


多分この人、緑間っちの誕生日は覚えてるんだろうなーとうっすらと思う、七夕だから
誕生日なんていらない、覚えて貰わなくてもいい
所謂記号のようなものだと思っているし祝われるより祝う方が好きだ、障に合っている

「あとでさつきに聞いとくわー」

桃っちは幼なじみの世話を焼くのがもうクセのようになっているが可哀想なのはその彼氏だろう
自分の彼女の異性の幼なじみなんて邪魔でしかない
しかもこんなにかっこいい
スポーツが出来て背が高くて、
ちょっと子どもっぽいところもここまでくればプラスポイントに成り得る
バスケバカなのはご愛敬
こんな人が自分の彼女の幼なじみだなんて、
桃っちの彼氏さんはいい人だけど、惨め過ぎる
黒子っちと少し似てる、寡黙で読書が好きな人
ふいの優しさに傾倒されたのだという
幸せそうだ

それに比べてオレは、恋人どころかおんなのこと遊びさえもしない毎日を送っている
単純に忙しい
空いた時間には
この人とバスケがしたい

「…別にいいっスよ」

「んぁ?」

「ううん、」

オレはこの人が好きなんだろうか
同性同士なのに、好きなんだろうかなんて考えちゃってる時点で好きなんだろうなとヒトごとのようにぼんやり思う

「あ、オレそろそろ帰るっスね」

「え?あぁ、じゃ、またな」

雑誌を眺める横顔をこれ以上見ていたら飽きもせず何時間でも見続けて仕舞うだろう
それでもオレは認めない
この人が好きだなんて認めない
認めちゃいけない
影にも光にも成れないオレが、この人に
黒子っちから、影から、世界から選ばれたまばゆい光に
恋なんてしちゃいけない
好きになんてなっちゃいけない


「……憧れるのは、もうやめたんスよ」

青峰のプレーを完全無欠の模倣したあの日
オレは自分じゃ光れない
と悟った
青峰の光をただ『写す』ことしか出来ない
青峰には
青峰と並ぶ存在には、成れないことを理解した
完全無欠の模倣をしていくに連れ、
自分じゃ光れないことが、キセキという光を反射するしか出来ないことがわかった

オレは模造品
造り物の花のような存在
いくら綺麗でも、枯れない、成長しない、雨露を受けてやわらかく揺れることもなく、種子を遺すこともない

光に憧れるような器もない

「なんで好きになっちゃったんだろう…」

自分の家に帰って来て、閉めた扉に背を預けて小さくひとりごちる

「なんで」

黄色の造花が、薄暗い部屋で光ることなくそこにある

「好き」

口に出して仕舞えば、それは待ってましたとばかりに溢れ出た

「好きなんだ、好きなんだよ青峰っち、ずっとずっと、お前だけ見てたんだ…!」

太陽に顔を向けるひまわりの蕾のように
叶わぬ恋を意味する黄色のチューリップのように
ずっとずっと見ていて
決して燈射すことのないこの黄色の目でずっと

オレは造花
造り物
本物で溢れた青峰の世界と違う、偽物ばかりのオレの世界
偽ることが日常のオレの世界
本物の光はひとつもない
本物の花はひとりもない世界

「好きっスよ、青峰っち」

フローリングに落ちた水滴も、電気を点けてあげなきゃ光らないただの水だった


×××


明日時間あるか、と珍しく携帯に連絡が入っていた
青峰は基本アポを取ったりしない
明日あした、と呟いて手帳を見ればまぁ夕方からなら会えなくはない予定
仕事ちょっと早めに終わらせられれば…
青峰に伝えれば夜でもいいと返信が来た
用事でもあるのだろうか
会うだけだなんて、したことない

その日、空も暗くなった頃青峰はオレの部屋へやって来た

「テツに聞いたら、花言葉とかってやつもぴったりだったから」

大事そうに、お土産を持って

「なんスか、それ」

「あ?プレゼントだよ。貰っとけ」

「え…?誕生日はまだ先っスよ?」

「わーってるよ!!違ぇ、それは、ほら、やっぱり造花じゃ駄目だろってさ、テツも言ってたし」

造花じゃ駄目
その言葉だけやけに頭に響いた
多分全く意図せず言ったのだろうが、オレにはオレ自体を否定された気がした
造花じゃ駄目
造りもののオレじゃ、
青峰っちには、不釣り合いだ

「そ、スか…。くれるんスか?それ?」

「あぁ、受け取れ」

「ありがとっス」

何故これをくれたのかはわからない
気まぐれかもしれない
黒子っちの思いやりかもしれない
でもオレには
まぶし過ぎる

鉢植えに入った小さな花は季節じゃないからか造花のそれより小ぶりで元気もなさげだ
早咲きのものは正月前には咲くらしいがそれにしても早いだろう
でも球根だから、余程じゃない限り枯れない
花が枯れても、球根は残りまたその季節に花を咲かせる

年中咲いたままの造り物とは違う

「なんでんな悲しそうな顔してんだよ」

そう言われ、はっ、と顔を上げた

「え?悲しくないっスよ!嬉しいっス!!」

いつもの笑顔で笑って見せる
季節や天気に合わせて花弁を揺らすことも出来ない張り付いた偽物の笑顔

「ならなんで泣いてんだよ」

「泣いてないっスよ、目ぇ悪くでもなったっスか?」

「泣いてんじゃねぇか」

詰め寄った青峰があの日みたいにオレの耳の上あたりを撫でる
泣いてるつもりなんてなかったのに、はらはらと涙が頬に伝って来た

「…あれ?」

笑ってるはずなのに、涙が流れる

「なきむし」

鉢植えは丁寧にテーブルの上に置かれ、偽物の隣に並んだ
惨めになるからやめてくれ



「ちっと気になってテツに花言葉聞いたら、恋人へのプレゼントに造花は駄目だろって言われて、買い直して来たんだよ。なにが嫌だった?なんで泣くんだよ、黄瀬。オレ、なんかまた間違ったか?」



「は?」



ちょっとよくわからなかった

「間違ってたらその場で言えよ。言われなきゃわかんねぇから、教えてくれ」

意味がわからな過ぎて涙が止まった
えぐえぐとしゃっくりをあげながら青峰の顔を見る
困ったように目を逸らして、後ろ髪をぐしゃぐしゃかいている
このクセは困った時とか照れくさい時のものだ
とか考えてたらだいぶ落ち着いた

「なんで、この花、くれたんスか…?」

「言っただろ、お前に似てたからだよ」

言って青峰っちはまた後ろ髪をぐしゃぐしゃかき混ぜる

「…似てる?造花がスか?」

「違ぇよ、その花がっつってんだろ」

「水仙が?」

「…んだよ、悪ぃかよ」

完全に照れてる時の仕草をして、青峰は言った

「最初は、色とか見た目とかが似てると思っただけだったけどよ、意味とかいろいろ聞いたらますますぴったりだなっ、て…」

「ど、んな意味、なんスか?」

「自分で調べろよバーカ!」

「えっと……」

「………」

男二人で真っ赤になって黙りこくっているこの状況で思考がまともに働かない
オレ、この男からすごい言葉聞いたかもしれない
聞き間違いか言い間違いだろうか
恋人とか
聞こえた気がする
しかもオレがその相手のような文脈で

「お、れ……」

オレは造り物の造花で、自分じゃ光れない模造品で
それでもあんたは、この花がオレに似てると言って、傍に
傍にいてくれるのか
あんたの光を
ずっと見ていていいの?

「オレ、えっと…、あんたのそういうとこ、好きっス…よ」

友愛だと誤魔化せるように予防線を張ったその言葉を青峰は受け止めオレを抱き締めた

「あぁ」

それって、オレもだってこと?
期待はしないって決めたのにあたたかな熱に浮かされて仕舞いたくなる

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ