誓い

□一話
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結界の外に出てからまずハルルに行くための通り道であるデイドン砦を目指す。


「・・・・あふ」


ぽてぽてと歩いているも、残念ながら私の眠気は限界に達していた。


それを我慢して歩いているのだからごん!と木にあたったりする。


「・・大丈夫です?」


それを何度も繰り返したものだからエステルが心配そうに顔を覗き込んできた。


「大丈夫、先を急ごうー」


ほぼ棒読みに近い状態で返事を返すとユーリが溜め息をついた。


「・・・少し休むか」


「まだ大丈夫だよ!」


「俺が疲れたんだよ、寝てねぇし」


そう言ってどさりと木にもたれ掛かる。


その横にラピードがゆっくりと座り込み、大きくあくびをした。


「・・・うぅ」


ユーリが気を遣ってくれていることが手に取るようにわかる。


私のせいでこうして到着が遅れるのは忍びない。


しかし疲れているのも事実で私の体は休息を欲している。


「休みましょう?」


エステルがひょこりと顔を覗き込み、くすくすと笑いながら傍らに座り込んで手招きした。


「・・・うん」


ラピードにもふっと抱き付くとラピードが一瞬吠えたがそれを無視して枕代わりに身体を預ける。


・・・うーん、ふっかふか。


「あんまいじめんなよ」


「ちがうこれはスキンシップである!」


びしっと指を指して誤解の無いように訂正しておくとくつくつと笑っていた。


・・むぅ、だってふかふかでもふもふなんだから仕方ないじゃない。


「・・・フィル、羨ましいです・・・」


どうやらエステルはラピードにあまり好かれていないらしく、頬を膨らませてじっと見ていた。


ラピードは人にあまりなつかないとユーリがいっていたが、やっぱりなにか理由とかあるんだろうか?


「・・・ん」


いろんな事を考えているうちにうつらうつらと眠気が襲ってきてゆっくりと瞼を閉じる。


すると思ったよりも早く睡魔が襲ってきて、意識を手放した。








鼻をくすぐる、懐かしい匂い。


それにん、と漏らしながらゆっくりと目を開けると黒髪が視界に入ってきた。


「・・・・ほえ?」


私の間抜けな呟きにふわりとそれが揺れた。


「起きたか?」


少し顔をこちらに向けて視線があう。


至近距離にあるユーリの顔。


それにぱちくりとなんどか瞬きをしてから自分の置かれている状況に気付いた。


「うわあぁ!?」


どうやら私はユーリにおぶさっているらしい。


理由は明白。


「起きなかったからさ、起こすのも悪ぃし」


真っ赤になりじたばたと暴れる私を笑って地面に降ろしてくれた。


・・・あぅ・・私、熟睡してたんだ・・


情けなさと羞恥で顔を赤くしたままユーリを見上げると面白いものを見るように私を見ていた。


「・・・エステルは!?」


ふと、辺りを見渡しても桃色の髪が見当たらないことに焦りが生じた。


「そこら辺ふらふらしてる・・ほらあそこ」


そういって指差したのは行商人。


何かを熱心に見ており、その横顔は輝いている。


ほっと息をついてまた、落ち着いて辺りを確認した。


「ここは・・・砦?」


「ああ、わりと早く着いて良かったな」


「へぇ・・・」


久しぶりに来たな、と懐かしく思っていると、突如鐘が鳴りはじめた。


何事かと思うと走って砦の中に入ってくる人々。


そして門の先に大量の魔物がこちらに向かって来ていた。


「な・・・」


視界の端に騎士が門を閉めようと操作しているのが見える。


外にはまだ遅れている人がいて、他の騎士が誘導に当たっていた。


これなら全員間に合うだろう、と安心してため息をついた。


「早く入りなさい!門が閉まるわ!」


そこに高台から凜とした声が通る。


見上げると赤い髪に眼鏡をかけた、気の強そうな女の人。


「・・・よし、門を閉めろぉ!!!」


「待ちなさい!まだ・・!」


鈍く音をたて、ゆっくりと閉まっていく門の先には襲い来る魔物と・・・


足を押さえている青年とその少し先に泣きじゃくる子供。


門は閉まり出しているが、きっと急げば間に合わない距離じゃないはず。


後は、考えるより先に体が動いた。


「ラピード!お願い!」


ユーリの傍らにいたラピードに声をかけて、私は門に向かって全力疾走。


私の意思を理解してくれたらしいラピードは騎士の元に走っていく。


それと同時にふわりと黒髪が視界の隅に入った。


「ユーリ!?危ないよ!」


「おまえに言われたくねーよ!」


ラピードが騎士に飛び掛かったのを視界の端で捕らえ、門が止まったのを確認して更にスピードを上げる。


へたりと座り込んでいる男性のところまでくるとズボンの裾が少し赤黒くなっているのがわかった。


「大丈夫!?」


「た、助け・・・、足が・・っ」


滲んでいる血の量からしてひどいものではなさそうだが、恐怖と連動して動けないのだろう。


―――私が治癒術を使えたらな。


『あの方』なら躊躇いなく治すのだろう。


だが私は使えない、だから―――


「立てる!?」


自分に出来ることを、精一杯やる。


もう後悔しなくてもいいように。


座り込んでいる青年に手を差し延べると横からふわりと桃色の髪が覗く。

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