SHORT
□たき
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「またあの子一人でいるよぉ」
「えー、そんなこと言うならハルが話しかけてあげればいいじゃーん」
「あはは!絶対やだよそんなのー」
「てかさ、いるだけで空気汚れるよね!なんで毎日来るのかなぁ?」
「消えちゃえばいいのに!」
タキに聞こえるように大声で言ってくる、ハルとヒカルの会話。
幸い、まだクラスの中には、集団でいじめようという雰囲気はなかった。
しかし、集団ではしないものの、そこに手を差し伸べる者がいるかというと、話は別だ。
一方タキはというと、全く気にした素振りを見せない。
机に本は置いてあるが、飽きてしまったようでぼーっと外を見ている。
「ほんっと、見てるだけで気持ち悪いよね」
「毎日よく鏡見れるよね!」
そんな言葉には見向きもせず、くぁあっと欠伸をする。
相変わらず目線は外に向いたままだ。
「あんた、そんななめたマネばっかして...」
かつかつかつ!とハルがタキの机に近づいていく。
ヒカルもそのあとに続き、二人で机を囲うように立ちはだかる。
「あんたね、いい加減にしなさいよ!!」
「...なに?」
ここでようやくタキは、非常にだるそうに返事をした。
「さっきからずっとシカトして、何様のつもりよ」
「......」
今度は、目線は合わせているものの口を開かない。
「あんたなんて、いなくなっちゃえばいいのよ」
ハルはタキの机を蹴り飛ばす。
しかし蹴られた当人は全く動じない。
「......で、何の用」
「はっ...?気持ち悪いから教室から出てけって言ってんのよ。早く出てって。あんたがいるだけで教室の空気が汚れるの」
「...悪いけど、一応あたしここの生徒だから。授業に出る義務があるの。それとも?お前らがあたしのこの義務を無くすよう退学手続きでも取ってくれるわけ?」
「っ...。うっせぇんだよこのカス!!早く出てけって言ってんだろ!!」
「...何回同じことを言わせれば気がすむの?」
「いい加減にしろよ、このクソ女!!!」
ハルは平手打ちをしようと腕を振り上げる。
パァン!と乾いた音が響くと思ったが、その手は空を切った。
渾身の力を込めていたハルは、勢い余って床に転ぶ。
タキは椅子の前足を浮かせて体ごと後方に下がり、ギリギリで平手打ちをかわしていた。
何を考えているのか読めない無表情のまま。
「ハル!?大丈夫!?」
「っ...ぐす......」
ハルは床にうずくまったまま、今度は泣き出した。
うそ泣きとわかる幼稚なものだったけれど、クラスの中心人物であったハルはたちどころに皆から心配される。
「えぇ、はーちゃんどうしたの!?」
「泣いてる!大丈夫?」
「ハルちゃん、ハンカチほら」
「あり、がと...」
「どうしたの、ハルちゃん」
「ハルね、そこにいるタキっていう奴に転ばされたの」
ここでありもしないことを言い出すヒカル。
クラスメイトも、全員とも実際はビンタに失敗して転んだと知っていても、それでも。
「そうなの!?」
「なんでハル蹴ったんだよ!ハル何にもしてねぇじゃん!!」
「こいつマジありえない!!」
「転校してきてそうそう人のこと蹴る!?」
「謝りなよ!」
「謝れよ、当然だろ!?」
「無視するとかありえない!ハルに謝ってよ!」
「......悪くないものは謝れないんで」
「はぁ!?」
「なに言ってんのこいつ!!?」
タキのまわりのギャラリーが一層うるさくなったところで、教室のドアががらりと音を立てて開けられる。
「おーいお前ら席につけー。なんだなんだ、タキのとこにまとまってんのか?」
先生が入ってきて、教卓につく。
それをみた生徒は、しぶしぶ席に向かう。
中にはタキの机を蹴ってから帰る者もいた。
「じゃあ授業始めんぞーー」
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