SHORT

□脆いそれは
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「……これが現実だ。
お前が好きなショウ・ザフェルって男は、こういうやつだ」

「……っ……」

フェルトは涙をぽろぽろ流しながら、足の力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。










「ちょっと、ちょっとフェルトちゃん」

「あ、なに?」

フェルトは名前を呼ばれて振り返る。
そこには、数人の男がいた。全てクラスメートで知り合いだ。

「少し話があるんだけどいいか?そんな時間かかんねぇからさ」

「大丈夫だよ?どーしたの、みんなして」

「ちょっと…その、女の子にしか頼めないことで…俺らが気兼ねなく話せるの、フェルトちゃんだけだからさ」

「ああ、そういうこと!いいよ、協力するする!任してっ」

フェルトは自信満々に胸を叩き、華を綻ばせる。
その笑顔を見て安心したのか、男どもも自然と表情が緩くなった。

「フェルトー、置いてくよー?」

その時、教室の入り口からフェルトを呼ぶ声がした。
フェルトは「ごめーん、先に行っててー」と大声で返す。

分かった―という声と共に、パタパタと数人の足音が遠ざかっていく。

教室に残されたのは、フェルトとその他3人のみ。
先ほどまで声が絶えなかった教室に静寂がおとずれる。

「えと、話って?」

もじもじして話を切り出さない友人に代わってフェルトが口を開く。
3人でいるのだから告白ではないだろう、と踏んで軽い口調で話しかける。

その内の一人、短髪黒髪の男――レードリックが突然にがばっと顔を上げた。
その勢いのよさに、フェルトは驚いて後ずさる。

「お、おれ…こないだ彼女ができたんだ」

そう話し始めるレードリックの声は震えている。
よく見れば握りしめた拳も小刻みに震えており、フェルトは微笑ましく思った。

「おめでとう!どんな子…って、先に話を聞かなきゃだね」

「それで、その……そういう行為って付き合い始めてどれくらいでやる…ものなのかな……って…」

どんどん尻すぼみになっていく声。
それと反対して、フェルトの顔は紅潮していく。

「ぇえっ!?え、え…」

フェルトは目線をあちこちに彷徨わせ、落ち着きなく指先を組んだり解いたりしている。
見るからに困っているという態度だ。
それもそう、まさかこんな話題だと一体だれが予想できただろうか。

「そ、その!フェルトさんのことを聞こうと思ってるんじゃなくて!女の子の代表として、知恵を授けてくれないかと思って…!」

「そ、そっか…。そうだな、えっと…」

今度は目線を上へと向ける。
目に入るのは蛍光灯の明かりだけだったが、それも今は平常心を取り戻す大事なアイテムだ。

「やっぱり、3ヶ月は待って欲しいんじゃないのかな…?」

「そうですか…」

聞いてきた男子は見るからに落胆した様子だ。声にもその感情がこもっている。
それも数秒で、落ち込みを振り払うように頭を振ると笑顔でフェルトを見た。

「あの、聞きづらいことなのに答えてくれてありがとうございました」

「うん、…でも参考になったならよかった」

「こ、こここれお礼です!良かったら食べてください!その、事前に準備してたんで…」

物凄くどもりながら和菓子を差し出してくる男子生徒。
フェルトは最初こそ驚きで固まっていたが、次第にこみ上げてくる笑いをこらえながらありがとう、とそれを受け取った。

和菓子を渡すと、男子生徒3人は逃げるように教室を出て行った。
フェルトは不思議そうな顔で出入り口を見つめていたが、やがて袋をペリペリとはがしながら後を追って教室を出た。

鞄を肩にかけ、空いている方の手で饅頭をもつ。
少々はしたないが、フェルトはもらった和菓子をもぐもぐ食べながら廊下を歩いていった。


ショウに会いたいなぁ……と考えながら。



  
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