SHORT

□帰還
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「タキ、おかえり。覚えてる?」

抱き上げていたタキをソファに降ろす。
タキはやはり微動だにせず、ただぼんやりと目の前を見ていた。

「何か飲む?」

そう聞いても、何の反応もない。
さきほど先生に点滴で応急処置のように栄養補給をしてもらったから、大丈夫だとは思うけれど。

やっぱり水がいいのかなぁ、と独り言を言いながらリンは台所へと歩いていく。

コップに勢いよく水を注ぐ。
きれいな泡が生まれては消え、透明な水がコップいっぱいに溢れた。

それを持ってタキのもとにもどる。

「タキ」

呼びかけても、何の反応も示さない。

それでも、ずっと話し続ける。

「水持ってきたよ、飲める?」

コップを差し出せば、うつろな目が動いてそれを見る。

「…はい」

細い声でそう返事し、タキは両手で水の入ったコップを掴む。

そして、一気に飲んだ。

「ちょ…そんな一気に飲んだら胃に悪いって」

うろたえるリンをよそに、タキはコップを持ったまま動かない。

「…どうしちゃったんだよ」

心配そうにそうタキに話しかけながら、コップを受け取る。
受け取るというより、勝手に手から抜き取るといった方が正しいのかもしれないが。


「タキ、今日風呂入るか?それとも明日にする?」

聞いても返事はないと薄々分かっていたが、どうしても話しかけてしまう。
反応はなくとも、きっとタキには届いてる、と疑わなかった。

しかし、案の定返事は無い。

どうしたもんかな、とリンは一人で考え込む。

よし、入れるか。と考えがまとまってタキを見た時には。
ソファに座ったまま器用にタキは目を閉じていた。

「!?」

慌てて近づくも、どうやら寝ているだけらしい。
そのことに安堵のため息をもらし、そっと抱き上げてベッドへと運ぶ。


(明日は学校、休むか)

そんな決意をし、リンは頭を掻く。

「あー…風呂はいろ」



  
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