短文

□ローカルルール
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バスケの試合と言うのは、制限時間がある。

よって、全ての動きはスピードを要求されるのだ。


24秒間の攻防。

何度も何度も放たれるボール。


タイマーが動く限り、試合は進み、

やがて、試合終了の瞬間が訪れる―――




ピーッ!!!




タイマーの音の後、審判が再度笛を吹いた。

試合、終了。

未だ冷めぬ熱を抱えたまま、選手達はコートに並ぶ。

敗者も、勝者も、お互いのプレーを讃えあった。





ローカルルール




彼はとても大きな背をしているのに、いなくなると何故だか中々見つからない。

会場にいるのは間違いないのに…

キョロキョロと周囲を見つつ徘徊していると、少し時間がかかったが、彼を見つかることに成功した。




『身体、冷えちゃうよ』




手に持ったジャージは無造作に投げられていた。

たくさん汗をかいた後にそれでは、身体によくない。

全身の力を抜いているかのようにだらんとして俯く。

そうしていると、背の高い彼の頭が私の目線の少し下くらいになっていた。

普段なら届かない距離にある彼の頭にあるタオルで、くしゃくしゃと髪を撫でる。




『……敦?』

「……なまえちん」

『ん』

「負けちゃった」




それ以上何を言うでもなく、彼は鼻をすすった。

きっと、バスケで負けることなんて考えもしなかったのだろう。

大嫌いで――大好きなバスケで負けたくなかったのだろう。


一歩近づいて、彼の身体を肩から抱き締めた。

汗で濡れた髪。試合で上がった体温。

その全てが、彼のバスケへの思いなのだ。




『お疲れさま、敦』

「…うん」

『格好良かったよ』

「、っ」




額に不意討ちのキスをすると、彼は一瞬呆けて、直後、私の身体をぎゅっと抱き締めた。

折れるかと思った。力、入れすぎだよ。

不器用な人。




「なまえちん…っ」

『あはは…敦ってば、泣き虫だな』




ベンチに腰かける彼と私の背が、いつもと逆転する。

もう一度、今度は唇に、私が上からそっと押さえるようにキスをする。

それを優しく受けとめる敦の背に手を回す。

同調するように、彼の腕の力も強まった。




『ん、ふ…』

「ん…」

『ちょ、しつこ……ぁ、』




頭の後ろを押さえ付けられ、離れる事が出来ず。

執拗に唇を重ねる敦に苦しいと訴えるけれど、彼は聴いてくれない。




『っふは…あ、敦っ…!!』

「んー?」

『長い長い!私そんなに息続かないよ!!』

「鼻ですればいいじゃん」

『そ、そうだけど…ムリ!!ていうか、こんなとこで…恥ずかしいし』




そうは言うも、周囲には人がいない。

試合の熱狂が随分遠くに聞こえることからも分かるよう、ここは会場の本当に端。


不満そうに口を尖らせる彼に、仕方ないと溜息を吐く。

敦の大きなジャージを取り上げ、乱雑に頭に羽織らせるとベンチに腰を下ろした。

私の膝にぽすっと乗せられるジャージを被ったままの敦の頭。

俗に言う膝枕だ。




『私、敦のプレー大好きだよ』

「……うん」

『だから、バスケ嫌いだなんて言わないで。辞めるだなんて、言っちゃイヤだな』




そっと、指先で敦のジャージを捲る。

また泣き出した彼の肩に『身体冷やしちゃダメだよ』とジャージをかけた。





ローカルルール
(適用地は私と貴方)

title byさよならワルツ.

120624

 

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