短文

□ハッピーリスクバースデー
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『……あ』

「……遅かったな」




完成した料理をタッパーに詰めて万事屋を出たアタシは、料理の出来に満足していた。

屯所に帰る頃には日が落ちきっていたが、とくに門限はない。

足取り軽く帰宅したアタシを待っていたのは、




『十四郎さん』

「何処行ってたんだよ」

『兄貴のトコ』

「……何をしにだ?」


『訊くまでもないこと訊くもんじゃないぞ』




彼の顔は、全てを見通した上での質問だと言わんばかりの表情だった。

山崎から聞いたのだろう、そして、理解してくれた。




『ハッピーバースデー、十四郎さん』

「…おう」




照れ臭そうに顔を赤くする彼に、思わずアタシも赤くなりそうだ。

こんなとこではあれなので、取り敢えず中に入ってから全ての事情を話し、

1週間の成果であるそれを渡した。




「何だこれ」

『クラムチャウダー』

なんで数ある料理からそれをチョイスしたんだよ

『マヨネーズ合いそうじゃん。色的に』

「…まァいいか…」




半ば呆れ顔でそれにマヨネーズをかけようとした手を止め、「今日はアタシがする」と容器を奪った。

最初は遠慮がちにかけていたものの、十四郎さんの目を見る限り、まだ足りないようで。

え?こんなに?そう思いながらあたしは更にマヨネーズを搾りだした。




『……ど、どうぞ』

「おう」




最早コイツはマヨネーズしか食ってねえみたいな量ののった皿を差し出すと、早速口に運ばれる。

ドキドキしながら、その時を見守った。




「……」

『…どう?おいし?』




アタシの問いかけに、十四郎さんは反応してくれない。

もしかして不味かった?と不安に駆られた。

どうしようと俯いた瞬間、十四郎さんは器とスプーンを握って、口の中に料理をかきこみだした。


その様子を呆然と眺めていると、ものの数分で綺麗に平らげてくれた。




「うめぇ」

『!!!』

「ありがとな、真城」




優しく微笑まれ、顔がかぁっと熱くなる。

俯いたままこくりと頷くと、頭を撫でられた。


暖かくて優しい、大きな手。

それは頭上からアタシの髪を弄びながら、頬に触れた。

縮まる距離に、自然と身構えた。




「……真城、」

『、んぅ…』




こうして口付けを交わすのは、久し振りだった。

一瞬離れて、十四郎さんは熱っぽい瞳で「口、開けろ」などとほざいた。

今日は彼の誕生日だから、拒否権はないように思えて、アタシは大人しく従った。


なんて、言い訳でしかないけれど。




「……っは…」

『…んんっ…!』




舌が触れて、唾液を吸われる度に、身体が震えて力が抜けていく。

後頭部を支えられて逃げ場は、ない。

呼吸も忘れて、ただ目の前の愛しい人の感覚に酔い痴れた。



どれくらい長い間キスをしていたのか分からない。

ようやく離れ、お互いが肩で息を吐いた。




「……真城」

『…はい』

「…抱いても、いいか?」


『ブフォッ!!?』

「!?な、なんだよっ!!」

『そ、そんな改まって訊くな!!なんか、“いい”って言いにく、』




「そうか、いいのか」

『あ』




ドサッと音をたて、アタシは仰向けに押し倒された。

近くの書類が、数枚舞った。

背中も、少し痛い。

盛りすぎだろう、そう苦笑した。




「理由はどうあれ、俺に隠し事したのには違ェねえ」

『あ、あの、十四郎さん?食後すぐ横になるのは消化に悪いですよ?』

「クク…そうだなァ。それじゃ、食後の運動にでも付き合ってもらうかな」




拒否権は、なかった。多分。



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