短文
□何倍返し?
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ぎゅっと抱きしめながら、俺は変わらずジャンプのページをめくる。
言った通り、一字一句(効果音まで漏らさず)なまえの耳元で読み聞かせてやる。
くすぐったそうにしていたなまえが、見上げる形で俺を見て来た。
『…銀ちゃん』
「ドギャーン、グシャァァァ!!!…と、うん?」
B●EACHの戦闘シーンを熱演している俺は、不覚にもなまえの上目遣いに心臓を鷲掴みにされた。
朝から散々いじめて来たせいか、少し眉は下がり気味だ。
『今日ね…ホワイトデーなんだけど』
「…うん」
『私ね、銀ちゃん何してくれるのかなあってずっと楽しみだったの、だから…』
朝早くに家を訪ねて来た俺が嬉しかったと。
なまえは苦笑気味に言った。
「まぁ、バレンタインに俺は美味しいチョコとなまえちゃんを頂いちゃったワケだし?」
『そ、それは…ッ!』
「お返ししなきゃいけねーよなァ」
柔らかいの前髪をそっと掻き上げ、上から額に口付けを落とす。
反射的に目をふさいだなまえの頬に、耳に、キスの雨を降らしていく。
『銀ちゃん…』
「今日一日はなんでも聞いちゃうよ〜、お姫様?」
『………ズルイ』
「ん?」
『ホントは何にも用意してないんでしょ…』
「………」
『やっぱり!』
「ち、違うよぉなまえちゃん!!ちゃんと覚えてて用意しようとしたんだよ?だけど、昨日は調子悪くて…」
手首を捻り、お決まりの動作をすると、なまえは溜息をついて『また負けたの…』と呆れた。
笑うしかない俺。
なまえは少しふくれっつらだったが、やがてニコリと笑って俺に短い触れるだけのキスをした。
「………真城、ちゃん?」
『許しちゃう私も甘いのかな』
「…あー、もう可愛すぎるッ!!!」
俺の前で微笑む可愛い彼女を腕の中でぎゅっと抱きしめる。
お返しする立場の俺が、貰ってどうするんだ…
甲斐性無しすぎて泣けてくるぜ。
「万年金欠でもいいの?」
『うん』
「来年も負けちゃうかもよ?」
『その前に行かないでよ…もう…』
「大好き、なまえ」
林檎みたいな頬して頷いたなまえに、深く深く口付けた。
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