短文

□甘すぎる彼氏
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バレンタインというのは、私にとっては一年で最も大事な日である。

それは女の子だからという理由だけでなく、とある、別の事があるからだ。




「なまえちゃーん?まだー?」

『っるさいな…さっき作りはじめたトコでしょーが』


「だあってー…もう甘い匂いが銀さんを誘惑するんだもーん」




恋人が甘党だからです。

正直、引くくらいの甘党。




「なまえの彼氏甘党なんでしょ?」

「エッ何それ可愛い!」




なんて言われるけど…

可愛くないよ。

白米に小豆のせるのは可愛くないよ!


確かにね、「チョコには目がない」「コーヒーよりココア」とかなら可愛いかもね

でもうちの彼氏は「チョコ以外にも目がない」「コーヒーよりも苺ミルク」だからね。




『湯煎の温度は一定で…』

「もう未完成でもいいから食べたいなー」

『ああもうそんなに言うなら帰ってくれる?完成したら持ってくから!』

「ヤダ」




なんて我儘なの!

溜息を吐いて、溶かしたチョコレートをかしょかしょと混ぜる。


とにかく、甘党な銀ちゃんの為にもおいしいチョコを作らないといけないのだが…




「…ねーなまえちゃん」

『お湯が入らないように…ん?なに?』

「チョコって俺以外にもあげるワケ?」

『あ、うん』


「誰?」

『真選組の人に。沖田くんから頼まれたの』




数日前、街で出会った沖田くんに経費はこっちで払うから、手作りのチョコを作ってくれと頼まれた。

バレンタインに女子から手作りチョコを貰えるかどうかは、隊の士気に関わるらしい。

最初は断ったのだが(私料理下手だし)、どうせ銀ちゃん用に大量に作るつもりだったし…

結局引き受けてしまったのだ。




「って事は多串くんにもあのストーカーゴリラにも…その他諸々の男共にも?」

『土方さんと近藤さんね。まあ、そうなるかな』




溶かしたチョコを湯煎から外して、型に流し込むと、前もって用意していた別のチョコを冷蔵庫から取り出す。

普通のチョコだけだと味気ないので、トリュフも作っていたのだ。

ココアパウダーを皿に出し、チョコを丸めていく。




「イヤだなァ…」

『大丈夫だって。銀ちゃんの分は減らないから―――――』

「なまえの作ったチョコは、全部俺のモン…だろ?」

『っ、!?』




いつの間にか、銀ちゃんは私の後ろに立っていた。

耳元でそう囁かれたと思うと、後ろから腰に手を回されてそのまま抱き締められる。

手で丸めていたトリュフが、ポトリと皿に落ちた。




『な、えッ…!?』

「かっわいーエプロンしてるんだから、俺の為だけにチョコ作ってよ?」

『銀ちゃ、む、ぅ…』



無理矢理斜め上を向かされ、そのままキスをされる。

身長差がかなりある為、私が上を向いても銀ちゃんは少し身を屈めなければ触れられなくて。

段々と深く、官能的になっていく口付けに肩を震わせると、銀ちゃんは短く息を吐いて離れた。



『あ…』



頭の中がぴりぴりと電気を帯びているみたいに痺れてて、意識がフワフワする。

銀ちゃんの左手が私の右手を取ったかと思うと、そのまま口元に運ばれ、

ぱくっと、その口にくわえられた。

チョコを丸めていたその手の指先には――――勿論チョコがついていて、




『や、やだ…っ』

「……甘」




ちゅ、とリップ音をたてて口を離し、口角を釣り上げてニヤリと笑った。

途端に顔が熱くなり、必死に抵抗しようとする。




『銀ちゃん…離して…っ』

「…………」




私の言葉を聴き入れる気はないらしく、銀ちゃんは一心不乱に指先に向かう。

吸い付かれたと思えば、甘噛みされて。

顔を背けてぎゅっと目をつぶっていたが、一瞬、銀ちゃんの顔を見てしまった。




『……!』

「ん…?」




イタズラをした子供みたいに舌を出して、ニヤリと笑っていた。

ゾクゾクと背中を駆け上がる何かに、私は頭を振った。


と、漸く銀ちゃんは私の手を離して、丸めたばかりのトリュフを摘んで口にした。




「なまえ」

『へ、っ』




再び重ねられた唇。

執拗に舌を絡められ膝ががくがくしてきた。




「なまえのチョコも、なまえも、俺だけのだからな」



ああ、なんて我儘な人なんでしょう。


 

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