短文

□■それは正義ではなく
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生まれて初めて、美しいと思った。

それはそれは鮮やかな、紅いハンカチを。





『……えへへっ』





誕生日に、ずっと欲しがっていたハンカチを買って貰った。

小さな牡丹の刺繍があって、縁はレースがとても可愛い。

一目惚れしてずっと親に強請っていたソレは有名ブランドの特別なモノで、

とてもじゃないけど、私のお小遣いじゃどうにもならなかった。





「朝から随分機嫌いいなァ?」

『あ、おはよグレイ!!見て、コレ!!!』





登校途中で出会ったクラスメイトのグレイに、早速ハンカチを自慢する。

ブランドだとか高いんだからとか言ってみたが分からないようだった。

でも、「綺麗な紅だな」と言われた事が、まるで自分の事のように嬉しかった。





「じゃ、俺からのはいらねェか」

『え?』

「ん。やる」





無造作に投げられたのは、これまた綺麗な紅いリボンをつけたクマのマスコット人形だった。

それを数秒眺めてからグレイの顔見て、思わず抱きついてしまった。





『ありがとグレイ!!!めっちゃ可愛い!!!』

「そりゃよかったよ」

『ああもうアンタイイ奴すぎる』





私を見て微笑を溢すグレイはまるで子供を見ているように優しかった。


憧れだった紅いハンカチ。

グレイがくれたクマさん。

宝物が増えた、なんて喜んでいる私の横を、スッと誰かが通り過ぎた。





『…、!!?…』





紅い、いや…あれは緋色。

とても綺麗な髪の女の人だった。





『グレイ、今の、』





震える声でそう言えば、彼は何食わぬ顔で、





「3年のエルザ・スカーレットだろ?」

『し、知ってるの!?』

「逆に知らねえのか?剣道部で全国レベルの奴だろ」





言われて見れば、何処かで聞いた名前だ。


エルザ・スカーレット。


そう、冷たくなった唇で呟いて、遠くなる彼女の背を見た。


緋色の髪がかかるその後ろ姿は、

紅いハンカチより、

紅いリボンのついたクマさんより、




美しかった。








ただ、彼女が欲しいと。

あの緋色が自分のモノになればいいと。


そう思った。








それは正義ではなく

(私、あの人が欲しい)


110723
(お題:xxx-titles様より)

 

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