短文

□■これが最高の
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自分でも驚きのスピードで走っている事に気が付いたのは、脚を止めようとしてからだった。

ブレーキをかけてから、2ステップでようやく止まる事に成功。





(あンの、ボケナスっ……!!)





くさびれた鉄の門を怒り任せに蹴ると、ガシャンと音を立てて、…外れた。

お構い無しにその門の上を走って中に入る。





「あれ?なまえじゃねーか。どうしたんだよ?」

『悪い、燐。今はぬしに構っとる暇はないんじゃ』





ドカドカと部屋を抜けていくと、ようやく目当てのクソジジィを発見した。

隣に奥村弟こと雪男がいるけど、まあコイツならいいか。





『このアホ獅郎!!おぬし何でなんも言わないんじゃァ!!』

「のわっ、なまえ!?」

「なまえさん?どうしたんですか?」

『どうしたもクソもあらん!!!一言も連絡せんからに怒っとんじゃ』





雪男はキョトンとして此方を見る。

獅郎は凡その検討がついているらしく、しまったいうような表情を浮かべていた。

フン、と鼻を鳴らして、獅郎の前の机に力一杯手をついた。





『ぬし…聖騎士になった事、どうして黙っておった?』

「あははー…言うの忘れちゃってー」

『しらばっくれるのも大概にじゃ』





ギロリと睨むと、獅郎は冷や汗を流した。





「とにかく!!此処じゃ燐に聞こえるかもしれねえから外で、な!」

『…ワシはイチゴパフェのある喫茶店しかイヤじゃ』

「はいはい…なまえはいっつもそれだな」





別に理由もなく好きなワケじゃあない。

祓魔師になった日、獅郎に初めて奢ってもらったのがイチゴパフェだったから。

いつの話だ、と自分で自分にツッコミを入れてみた。























落ち着いたのは修道院から一番近い軽食店。

明るい雰囲気の店に入った強盗さながら、ワシと師郎は完璧に黒服だった。

完全に浮いてるぞ、コレ。





「で?俺が言わなかった事に怒ってわざわざ来たのかよ?」

『…獅郎、最近連絡くれんから。顔見に来たんじゃ』

「おっ。嬉しい事言うじゃねえか…寂しかったかァ?」





丁度いいタイミングで運ばれてきたイチゴパフェ。

それにトッピングされたポッキーをとり、獅郎に突き刺すように向ける。





『このイチゴパフェにおいて、あってもなくても困らんポッキー程度に、ワシはぬしの事を気に掛けておる』

「……あれ、ソレ喜んでいいのか?」

『…冗談じゃ』

「あ、やっぱり寂しかっ…」


『獅郎はおってもおらんくてもよいが、ポッキーはないと困る』

「ソッチかよ!!?」





このやり取りも久々だった。

思わず笑ってしまいそうになるのを堪え、摘んだポッキーを噛りながら、向かいに座る獅郎から目線を逸らした。





『ぬし…ワシが聖騎士になりとう思っておったから、黙ってたんじゃろ』

「さーなァ……」


『ワシはぬしの優しい所がだいすきじゃ。

が、しかし…お人好しなのは考えものじゃと思っとる』


「ハンっ……お互い様だと思うぜ?」





沈黙。

そうか、ワシはお人好しだったのか。

思い当たるフシがなくて首を傾げると、獅郎が手を伸ばしてきた。

そのまま指が、ほっぺたに、触れた。

どうやら生クリームがついてたらしく、それを指先で拭って自らの口に運んだ。





『なぁ!?』

「おーおー。真っ赤になりやがって。いっちょ前な口きいても、俺の事好きなクセによ」

『い、いいいいつの話じゃ!!』





そう言い返せば、獅郎はケラケラと笑って、最後まで残してたパフェのイチゴを、器からさらって食べた。

プツンと何かが切れて殴りかかったが、その手を掴まれ、逆に引き寄せられる。

距離が、殺される。

近い。かなり顔近いぞこの体勢。





「……なまえ」

『……手ェ痛い』





そう言えば、獅郎は何もしないで「悪い」とだけ呟いて手を離した。

へたれだ。

キスの一つくらいしてくれてもいいじゃないか。





『ま……精々早死にせんことじゃな』





空になったパフェの器にスプーンを置く。

カラン、と軽い音がやけに大きく聞こえた。

席を立ちながら、





『危険な仕事が舞い込む事は避けられん』

「…………」

『ぬしがおらんと、物質界はますます面白味がなくなるであろう?』

「お前こそ、無駄死にすんなよ」


『フン……ワシがぬしより先に死ぬと思うか?

ぬしの墓に“ざまあみろ”と言うまで死にゃぁせん』





それだけ言って、獅郎に伝票を押しつける。

店から出ると、さっきまで降ってなかった雨がポツポツと地面を跳ねていた。






















今日も雨が、降っていた。

思い返せば、ワシが獅郎に会う日はいつも雨だった気がする。


薄暗い墓地は、雨が降り注いで余計に暗く見えた。





『  ざ  ま  あ  み   ろ  』





目の前の墓にそう吐き捨てると、いつの間にか決壊した涙腺が涙を流しはじめた。


狂おしい程愛した男が、死んだ。

それは現実なのに、受け止め方はまるで夢みたいだった。





「よかったではないですか、なまえさん。

藤本神父が死んだお陰で、貴女は聖騎士へと近づいたのですよ?」





いつの間にか隣にいたメフィストが、明るすぎる声でそう言った。

それに、ワシは雨音に負けそうな声量で返事をした。


『……そんなモノ、いらん』

「どうして?あんなに欲しがっていたではありませんか」

『サタンを狩るのに、称号など関係ないであろう?』





腰の刀抜き、墓の前へ突き立てた。





『愛しているぞ、獅郎』






これが最高のバッドエンド

(戦う)

(偽善ではなく、自己満足の為に)


(お題:確かに恋だった様より)


→あとがき

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