短文
□愛する人、
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今日は、日曜日。
家庭という小さな箱では息苦しさを覚える。
ある意味、地獄だと思った。此処は。
(一口に“あか”と言ってもたくさんある。
赤、紅、緋…その時の雰囲気で違う印象を持つ)
勝手な持論を口の中で語りながら、目下の腕を伝う“あか”を見た。
赤というには鮮やかすぎて、紅と言うには寂しすぎて、緋のような優しさもない。
ただ、冷たい。
私は此処に生きているのだという証。
(そうだ…この“あか”は、証の“あか”だ)
フッと笑うと、腕の赤はフローリングの床にポタリと、落ちた。
興味が沸いて仕方ない。
このままでいれば、私はどうなるのだろうか?
死ぬのかな?
死ぬってどんなかな?
――――カシャッ
微かなフラッシュとシャッタ音とともに、携帯は私の“あか”の撮影を完了した。
“あか”のついていない方の手でメールを打つ。
勿論、写真を貼り付けて送信。
愛しい友人へ向けて。
もう、ダメなの。
私は貴方がいないと、1人で、沈んでしまう。
From:なまえ
Subject:No title.
――――――――――――――
ごめん
またやっちゃった
そんな明るい文面とは裏腹に、貼り付けられた写真には、
赤黒い血が伝うなまえの白い腕が流れていた。
また、止められなかった。
自分を責めても何も変わらないのを俺は痛いほど知ってるくせに、拳を強く握った。
爪が手の平に刺さって痛い、
でも、なまえはもっと痛い。
「クソッ……」
舌打ちをしてから部屋を出ようとすると、シャツを引かれる感覚がした。
振り返るのも億劫だったが、俺は思いっきり睨みをきかせて、
「離せよ」
そう言ってやった。
シャツを掴むのはついこの間告白してきた女。
告白されるまで名前も顔も知らなかった女だったが、一生懸命な姿についついOKを出してしまった相手だった。
「何処行くのぉ…ナツくーん……」
はりきりすぎた香水の匂いが、鼻をつく。
なまえとは違う、女の特有のくすぐるような匂いもする。
「ねェ…またなまえ……?」
「分かってんなら、離せよ」
「行くのやめなって。どうせあのコはただの構ってちゃんなんだからぁ」
煩い、黙れ。
オマエはなまえの何を知ってるんだよ?
気がつくと、俺のシャツを握っていた女の手首を掴み、ギリギリと締め上げていた。
痛みに歪むソイツの顔を見て、追い打ちをかけるように
「テメェなんかより、なまえの方が大事だ」
友達としてだ。
(…本当に?)
自問自答に答えを出さず、俺は部屋から飛び出した。
去り際に「別れっから」と告げた。
『ナツはわたしのいちばんのともだちだよ』
「おれも!!なまえがいちばんだ!!」
小さい頃の、私とナツ。
ああ、私は昔からこんなに冷めた子供だったんだ。
『いっつもわたしを助けてくれて、ヒーローみたいで、やさしくて…』
「あったりまえだ!!おれは何があってもなまえの味方だからな」
ね え
わ た し の ひ ー ろ ー さ ん
い つ も み た い に
た す け て は く だ さ い ま せ ん か ?
『ナ、ツ…ナツ………』
ようやく、血が止まってない事に気がついた。
道理でフラフラするワケだ。
気がつけば床は目の前で、脚は自重を支えきれず震えていた。
「―――――――なまえ!!!!」
ああ、そうだったね。
君はいつでも私の味方で、
いつでも私のヒーローだった。
『……ナツ?』
「しっかりしろ!!お前、またッ……」
『学校行くの、迎えに来てくれたの…?ナツ…今日は日曜日だよう……』
「なまえ!!…なまえってば!!!」
私の身体を抱え、揺さぶる彼の手に触れる。
『…あったかいなあ』
私が冷たいのかな。
もうどっちだっていいや。
ナツがいてくれたら、いいや、全部どうでもいい。
『ちょっと、疲れただけだよー…
この間のゲームの決着もついてないし…
ああ、ナツの課題を終わらせるのが先だね、
すぐ、起きるから』
愛する人、
(どうか泣かないで)
(お題:雲の空耳と独り言+α様より)
110616