短文

□裏の裏の表
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(!夢主は藤本神父の娘設定)






「なまえーっ!!今日の夕飯何が食いたい!?」

『…燐、ごめん。今日は雪男と仕事なの』





なまえは、酷いヤツだ。

俺という彼氏がいながらいっつも雪男と仕事仕事で、夕飯さえも中々一緒に食ってくれねェ。

最近は学校でも塾でも避けられてる気がする。





「冷たいヤツだなぁ…」

『ごめん、ホントに…。明後日は絶対空けとくから……』

「はぁ!?明後日って事は明日も仕事かよ!!」

『うう…実はですね……』


「もう知るかっ!!勝手に雪男と行ってろバカなまえ!!」





ついに俺はグレた。

仕方ない事だって分かってるつもりだ。

俺よりも先になまえが祓魔師になった以上、俺はまだアイツを守れない事くらい。


でも、やっぱり気に入らねェ。

こんな夜中に自分の好きな女が男と、ましてや自分の弟と一緒にいるだなんて。





『ごめんね…明後日は私、早く帰って夕飯作ってるから!!』





何日か前から、顔を合わせては謝られている気がする。

別に謝ってほしいワケじゃないんだ。

俺はただ、なまえと一緒にいたいだけだ。





(なんで本人の前で言えねェんだよ……ッ)


「なまえ、そろそろ出ないと」

『あ…うん!燐…戸締まりはしとくから』

「兄さん、明日までの課題、僕がいなくでもちゃんとやるんだよ?」


「オカンかお前等!」





苦笑気味に扉を閉めた二人。

寮には俺一人になっちまった。





「…ばかなまえ」





もう一度呟いて、無遠慮に頭を掻いた。





***





「はぁ?なまえ先生の様子やて?」





次の日、俺は関西弁トリオに調査に出た。

俺に何か隠し事してるのであれば、情報すじを辿ればすぐ分かるハズだ!!





「確かに、此処最近妙にそわそわしてますね」

「だよなぁ!!さすが子猫丸」


「なんや、奥村君にも原因分からへんの?」

「分かんねえから訊いてんだよ、くそ……」


「どうせ、そろそろ別れ話でも切り出そ思てんちゃうか」





その言葉がずどんとのしかかり、思わず倒れそうになる。





(そうなのか?だから、最近俺に謝ってばっかて……)





もやもやとしたまま席につくと、意外な人物から声をかけられた。





「ねえ」

「…まろ眉?」

「その呼び方、止めてくれない?」





まろ眉女こと神木出雲は、溜息を吐いてから何故か楽しそうに話してきた。





「アンタと藤本先生、別れたんだ?」

『藤本?…あぁ、なまえか。って、別れてねェよ!!人聞きの悪い事言うんじゃねェ!!』





そう苛立った声で返せば、瞬きを数度繰り返して驚いた顔をした。

変ね、と呟くから、何がだよと訊いてみれば、意外とあっさり教えてくれた。





「昼休みにね、奥村先生とキスしてたの見たんだけど…

綺麗な白銀の髪だったから、てっきり藤本先生だと思ってたのに」





ドクン、と心臓が鳴った。

呼吸が乱れた。

この学区内で、なまえと見間違える程変わった髪の色の女はいないハズだ。

なんで、雪男と?





「悪かったわね。今のは忘れて頂戴」





忘れられるワケなかった。





















この日最後の授業は、いつもの通り優しい顔で熱心に教えるなまえをぼーっと眺めていた。

どうしても、まろ眉の言葉が頭の中でリピートする。

雪男も雪男だ。なんで真城にキスなんざした?

確かに惚れてただの兄さんになまえは渡さないだと言ってた頃はあったが、ガキの頃の話……。





『奥村くん…聞いてます?』

「!!っう、あぁ、悪ィ…」

『授業中です。敬語を』





思わず普段の通りになってしまう。

雪男はあまり気にしないみたいだが、なまえは授業になるとやたら厳しい。





『もう…68ページの問い4です。答えをお願いします』

「……」

『…奥村くん?』





黙って俯いた俺にとことこと歩み寄り、身を屈めて見上げてくる。

止めろ、そんな目で見んな……!





「…先生、質問してもいいっスか?」

『は、はい……何でしょう?』


「奥村雪男先生とキスしたって言うのは本当ですか?」

『!!!!』





塾生は少人数ではあるが、確かに教室は騒ついた。

なまえは顔を真っ赤にしてから、咳払いを一つして俺に背を向けた。





『じゅ、授業に関係ない話です!!それに、そんな噂は信じない事』





噂?嘘吐け、お前の顔見たら分かるっての。

無性に腹が立った。

なまえの腕を掴むとそのまま引き寄せ、授業中だという事も忘れてキスした。





『んっ……!?』





短い悲鳴をあげ、なまえは必死に抵抗する。

それでも、力が抜けていってるのなんてすぐ分かった。





『離して!!!』





勢いよく腕を取り払われ、距離が生まれる。

はぁはぁと荒く息を吐くなまえの頬は更に真っ赤に染まっており、俺の目には毒だった。





「クソっ……」





乱暴に扉を開けて教室を出ると、へなへなと座り込んだなまえが、





『今日は、自習に…します』





そう言うか細い声がした。






***






寮に帰ってからも中々踏ん切りがつかず、ずっとなまえの事ばっか考えてた。

ぐるぐる考えが絡まって、まとまらない。





「…兄さん?」

「おー…雪男かー…」

「なまえがね、“今日の仕事は別の人と行って”と言ったんだ」

「!!」





ベッドの上でのばしていた身体をがばっと起こし、雪男の顔を見た。

今まで見た事がないくらい怖い顔をしていて、思わず息を呑んだ。





「どういう事か、分かるよね?」

「っ……」

「あんな人前でいきなり…混乱するのも当然、」

「なまえとキスしたの、本当なのかよ」





結局なまえ本人から聞き出せなかったその言葉の真実を雪男に確かめる。

雪男もなまえと同じく戸惑った顔をした。





「……否定は、しないよ。

でも、なまえは悪くない。僕が無理矢理、」


「、はぁ!??ンだよ、それ!!??」





思わず雪男の胸倉を掴んで締め上げる。

必死な俺とは裏腹に、雪男は涼しい顔で続けた。





「僕はなまえの事が好きだ。ずっと、ずっと前から。

それは兄さんの彼女になっても変わらなかった」


「テメェ…!!」


「僕はそれをなまえに伝えた。そしたら彼女、なんて言ったと思う?」





勿論断るに決まってる。

なまえは俺の彼女であって、俺の事が好きなハズで、


そんな俺の予想を簡単に裏切った。





「“考えさせて”だってさ」

「!!!?」





今日二度目の衝撃だった。

考えさせてほしい?何でだよ?

お前は俺の事が好きなんじゃないのかよ?


ぐっと唇を噛むと、雪男を掴む腕の力が抜けていく。





『雪男、ごめん…やっぱ私ちゃんと仕事行くから………

………どうしたの、二人とも…?』





突然扉を開けて入ってきた真城はキョトンとして俺達を見た。

周りからみたら、確かに喧嘩の序章だ。それもちょっとじゃすまない程度の。


心配そうな瞳は、俺の目にも雪男の目にも合わさらない。

ただ宙を泳いで、何処を見ればいいのか困っているようだった。





「…なまえ、ちょっと来い」

『え?ど、どうしたの燐っ……い、痛いよ、手……』





ぐいっ、と手を引き、なまえを部屋から連れ出す。

雪男は、それを止めなかった。





















旧男子寮である私達の今の家。

生活してみると、そこは外観よりもずっと広く、空気は穏やかだった。

端の階段の踊り場に燐によって導かれた私は、燐に背を向けて座り込んでいた。





「…塾での事は、その…正直悪かった」





ようやく話しだした燐。

静寂だった空気が壊され、一気に安堵する。

ううん、と首を振って、





『大丈夫だよ。もう気にしてないし』





どちみち私達の関係は既に塾では大っぴらなんだし。

今更あんな所を見られて気にかけてるのは変だ。


謝る為に連れてきたのかな。

不器用な燐を思って、思わずくすりと笑った。





「んで、雪男から聴いた」

『え?』

「む、無理矢理…、されたんだろ?キス…」





あぁ、その事か。

無理矢理、確かにそうなのかな。

燐にしては面白くない話だと思う。だって、私は燐のモノなんだから。





『…気付いてたんでしょ?私が燐の事避けてるの』

「…………………うん」

『あれね、雪男に告白されて挙動不審になってたから』

「?」

『断ったら雪男に嫌われるのかな、って思ってたら…結局曖昧な答え出しちゃって』





まともに燐の事見れなかった。

それでも普段通りを装ってはいたつもりだった。





『半分兄弟みたいなものだから、燐も雪男も。

どちらにも好かれたいと思うのは流石に我儘だけど…どちらにも嫌われたくなくって…』


「雪男は、そんな事でなまえの事嫌いになんねーよ」

『あはは。ごもっともです』





あ、やっと普通に笑えたかも。





「…キスは?」

『あれはホントにびっくりした。“肩に虫がついてるよ”なんて言うから、私パニックになって…』

「………」

『取るから目ーつぶってーって、雪男が…』

「で?」

『そのままスルリと。普通に手慣れてて驚いた…』





流石にフレンチをされたとは言えなかった。

この年で兄弟喧嘩が勃発したら、あんな古い寮が壊れる可能性もなくもない。

そうか、とようやく落ち着いた燐は私の背後から、包み込むように抱きしめてきた。





『り、りり燐!!?』

「はぁー……マジで脅かすなって…」

『…へ?』


「雪男に惚れたのかと思った」





燐の言葉を聞いて二秒静止。

そのまま私は大声で笑い転げた。





「な!?」

『あはははっ!!!燐ってばそんな事心配してたの?』

「そ、そんな事とはなんだよ!!!俺はこれでも真剣に、」

『勿論、雪男の事はだいすきだよ。家族としてね』





実際、キスされて微塵も嫌だとは思わなかったし。

そう付け足して頭上の斜め上に位置する燐の顔を窺うと、不機嫌そうな顔をしていた。





『でも、燐はとくべつ』

「……お?」

『いちばんすき』





ニッコリと笑うと、そのままキスを落とされる。

瞼の上、頬、唇、ついばむというか、そんな柔らかなキスを、たくさん。

くすぐったいよ、と身を捩っても、聞く耳を持ってくれなかった。





「……浮気とかすんなよ?」

『ううん……でも雪男にキスされて嫌じゃなかったは浮気発言なのかな?』

「アイツはいい。許す」

『…どうして?』


「俺の弟だからな。ある程度は多めに見てやる!!」





そう言ってイタズラに笑う燐が、私は本当に大好きだ。





(心の、裏の裏の表)

(それって本心?)




→あとがき

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