短文

□お勉強しましょ!
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シャーペンが文字を書くスピードが、どんどん下がる。

ピタリと止まって、数秒迷うように揺れた後、再び文字を書く。

それを何度か繰り返して、遂にシャーペンは完全に動きを止めた。





『……ここ分かんない』





目の前で難しそうな、いやきっと難しいであろう本を読んでいたグレイにそう言う。





「あァ?……」





怪訝そうに眉をひそめた彼は、私のシャーペンが指す問いを見て、溜息を吐いた。





「そこ、さっき教えたのと同じパターンだ」

『え、うそ、…』

「アホか。そこでその公式使ってどーすんだ」





勉強を教えてやる。

そう言い出したのはグレイだった。

てっきり皆でやるんだと思っていた私だったが、招かれたグレイ宅には誰もいなくて、


つまり、今は二人きりと言うワケで。





(……言ってしまえば、)





凄く、息苦しい。

横で説明してくれてるグレイの吐息が顔にかかって、変な汗が出てきた。





「…聞いてんのかよなまえ」

『ふへっ』

「ふへって何だその声」


『あ、あぁ…ごめん。もいっかい教えて』


「はぁ……だから、」





溜息を吐いてからもう30センチほど近づいて身体を寄せる。

もう近いとかいうレベルじゃなくて、グレイがノートを差す腕が私の肩に触れている。

こんな広い部屋で何故ここまで密着しているのだろうか。





「んで、ここにχを、」

『ぐ、グレイ……』

「ん?解んねえ、か……っ!!」

『、あっ』





もう少し離れて、と言おうと顔を彼に向けると、思ったより接近していたグレイと目が合う。

油断したら鼻先が触れてしまいそうな距離、だ。

呼吸する事も忘れて、グレイ肌白いなとか、目の色綺麗とか、

やっぱり顔整ってカッコイイとか場に合わない事を考えていた。


そしたら、急にグレイが更に顔を近付けてきて、





『え、…ん、むっ』

「ふ…」





お互いが短い息を吐いて、唇が触れて、いきなりすぎで私は混乱した。

シャーペンは指から離れてカランと机に転がった。

甘くて、まるで水中に溺れていくようなキスだった。










どのくらいキスしてたのか分からない。

ちゅ、と可愛いリップ音をたてて離れると、何かを吸い取られたかのようにへなへなと肩が落として手を床についた。





『い、いま、…あの、さ……』





言葉が見つからないでもごもごしているど、段々恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。

ちらりとグレイに目をやると、彼も何故かしまったみたいな顔を真っ赤にして、片手で唇を押さえていた。





「わ、悪い…ホント、その…」

『う、うん…私こそ……』





そう言いながら自分が何を謝っているのか分かってなかった。


頭がふわふわしてる。

凄く気持ちがよくって…。


今まで付き合った人としてきたキスとは全然違う。





『グレイ……』

「い、今のは忘れてくれ…もうしねーから、」

『もう一回…して?』





数秒沈黙した部屋。

その後、「……へ?」とグレイが唖然として呟いた。





『すごく気持ちよかった…なんか、ぽかぽかしてきて…』

「おま……っ!!?」

『だから、もう一回…』





そこで言葉を止めると、慌てていたグレイがぴたりと落ち着いて、ニヤリと怪しく笑った。





「その数式…5問解いたら一回、な?」

『え?』

「キス、してほしいんだろ?」





なんとドSな言い方だろうか。

反論しようとして、どうせこの課題は終わらせなければいけないんだと思い出して、

折角だし、ご褒美はあった方が捗る。


私は少し膨れっ面でシャーペンを握ると、





「頑張れよ」





と膨れていた頬に不意討ちのキスを食らった。





(頑張るのは課題を終わらせる為!!)

(ご褒美目当てじゃないんだから!!)




110529

 

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