短文

□世界で一番
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煩い奴は嫌いで。

弱い奴はもっと嫌いだ。

なのに何故なんだ。





『ガジルくん!一緒に仕事行こーっ!』





俺によく付き纏うあの女は弱くて煩いのに。

どうして嫌いじゃないんだ。





「…分かったから、もっと静かにしやがれ」

『うん!分かった!』

(分かってねえ)





妖精の尻尾では慣れ慣れしくする奴は大勢いた。

その中でも、なまえは異常だった。


しかも、だ。

俺は幽鬼の支配者と妖精の尻尾との戦争の時に戦った相手だというのに。





“仲間を傷つける…ルーシィを泣かせるお前達を許さない”





そう言っていたのがまるで別人のようだ。

溜息を吐いた俺を不思議そうに見上げてくるなまえは何処までも無邪気だった。





『なんか疲れてる?あ、なんならあたしがビビビッと』

「やめろアホ。殺す気か」


『電気ショック療法だよ』

「それは心臓止まった時にするモンだ」





ふくれっ面をしたなまえの頬から小さな雷が放電する。

その僅かな電力でさえ、俺の元へ集まってくる。

雷の魔法を使うコイツとの相性は最悪だ。

近くにいると静電気が絶えないしな。





『なら今日は仕事やめー!遊びにいくぞ!!』

(余計疲れるわ)


「あー!なまえ!!今日は俺と買い物行くって、」

『またねグレイ!明後日空けとくからさ!!』


「なまえ!!勝負し、」

『グレイとやって勝てたらやったげるよナツ!!』


「なまえ…今日も君は可愛いね…よかったら僕と一緒に」

『ばいばいロキ永遠にさよならー!!』





ギルドから出るまでにいろんな奴等から話しかけられるも、なまえはそれを軽く避ける。

こんなに周りから人気のあるなまえがここまで俺に構う理由が分からねえ。





「なあ、なまえ」

『ん』

「何を企んでんだ?」

『いやだなあ、そう言う考え方!』





俺の数歩前を歩いていたなまえはくるりと振り返り、長い髪を揺らした。

悪意0%の笑みが、逆に癇に障る。

その長い髪を指先にくるくると絡ませて、どこか恥ずかしそうに俯いた。





『鈍感だよね、ガジルくんって』

「は?」

『女のコが男のコに構うなんて…理由はひとつでしょ?』

「…悪い、もう一回逝ってくれ」


『待ってその誤字酷い。まだ一回も逝ってないし逝きたくないよ』





ガラにもなくふざけてしまって、咳払いを一つしてからなまえの顔をもう一度みた。

頬は紅潮して、悩ましげに動かす指先。

その仕草も、何故かいつもより大人びて見えた。





『あたしはガジルくんがすきなんだよ!』

「そうか。俺は嫌いだ」

『え、ちょ、…嘘ッ!?』





弱いし、煩いし、お節介なお前の事が。

俺は大嫌いだ。









(コイツが世界一の馬鹿なら)

(そいつを好きな俺はきっと宇宙一の大馬鹿野郎だ)



110507

→あとがき

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