短文

□想う
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『―――――あたしさぁ、よく考えたらなまえさんって見たことないかも』





あれから更に2年が過ぎた。

なまえと一緒に俺の部屋で過ごしているとそんなことを言われた。





『写真とかないの?』

「あるにはあるが…お前が鏡の前立った方が早いと思うぞ」

『そんなに似てるんだ、あたしとなまえさん』





目の色だけは全然だけどな、と付け足すと小さく笑った。





『やっぱ比べてた?なまえさんと』

「…誰を」

『あたしと』





寂しそうにそう言ったなまえの腕を引き、自分に引き寄せた。

『わ、』と小さく声を出してなまえは俺の胸へ上半身を倒した。





「バカじゃねーの」

『え?』

「なまえも大事だ。でも、お前もなまえとは別で大事だ」





そう耳元に囁くと、なまえは顔を真っ赤にして俺を見て、すぐに俯いてしまった。





『グレイのタラシ……』

「ハンっ…そのタラシにリンゴみてーに顔真っ赤にさせてる誰かさんに言われたかねーよ」





何も言い返せなくなったなまえの顔を覗き込む。

床に座って、抱え込むように抱き締めているから身長差がそれを助けてくれた。





『…グレイ』

「ん」





『あたしの事、すき?』


「あぁ」


『なまえさんより?』


「ああ…って、そんなこと言うとあっちのなまえに怒られっかな」







『なまえさんの生まれ変わりとして?』



「一人の女として、だ」





そこまで聞くと、ホントになまえは黙った。

涙を流して、目をつぶっていた。


あやすように頭を撫で、髪に指を通す。

似ているようで、なまえとなまえは全然違え。


全力で笑って、全力で泣いて。

そんななまえに、いつの間にか夢中だった。





「…なまえ、左手貸せ」

『グレイに握られてるから、無理』

「アホかオメェは。いいから、こっち向け」





握った手をなまえの顔の高さまで上げ、

ポケットから取り出した箱から、銀色のリングを出した。





『……へ、』





ひやりとしていたリングを左手の薬指に通して、その上にキスをする。

間の抜けた声を出したなまえに目をやると、涙に目を潤ませて、さっきよりも顔を真っ赤にしていた。





『あ、あの、グレイ…さん?』


「なまえさん、貴方の事が好きです」


『っ…う、』





「俺と、結婚してください」





ポカンとした顔だったなまえは肩を震わせてから両手で顔を覆い、そのまま、最初は小さく頷いて、大きく何度も頷いた。



コイツにはたくさん迷惑をかけた。


何度も何度も助けてもらった。


幸せになってほしいという気持ちより、


“俺が幸せにしてやりたい”とい気持ちが大きくなっていって。





『すき。

グレイのことが、だいすき…

ずっと、ずっと…』
























花が、咲いた。

魔導士というのはホントに恐ろしくも便利で、そして仲間思いな奴等ばかりらしい。

妖精の尻尾の魔導士が、なまえがバイトしていた花屋からもらったなまえの好きだという花の種を、魔法を使って全て咲かせて見せたのだ。





「なまえー。準備できたー?」

『ぎゃっ!ま、ままま待ってルーシィ、まだファスナーが、あっ、』





ルーシィが扉を開けるのとなまえがファスナーを上げる音が重なった。





「……なまえ、」

『ルーシィ…あたしやっぱり式やめたい―――――』

「すっごく可愛い……!」





口を両手で押えるルーシィを見て、なまえはルーシィの方が可愛いと思った。


今日は、なまえとグレイの結婚式。

花嫁であるなまえは勿論、ルーシィも正装。

あのナツでさえ、スーツを着てこの教会に来ていた。





『うう…気持ち悪くなってきた』

「やだ、つわり?式の途中で吐いちゃ大変よ。今のうちに行ってきなさい」

『そんな大っぴらに言うのやめてくんないかな…』





なまえのお腹には、新しい命。

白いウェディングドレスからはあまり目立たないが、確かにそこに在るのだ。





「ルーシィ、なまえ。早くしないとナツが暴れ出す」

『あ』

「そっか!ナツは今ごちそうを目の前にしてるのに耐えてるんだった…!!」





いつの間にか部屋の中にいたエルザにそう言われて、3人は少し急ぎ足に式場の方へ向かう。

思ったより緊張していて、なまえは顔を熱くさせた。





「――――…なまえ!!」





後ろから、名前を呼ばれる。

きっと何年経とうと、生まれ変わろうと、決して忘れられない彼の声と、自分の名前。





『ぐ、グレ、イ……』

「や、その…あれだな、早くいかねーと…」

「あっれー?グレイ、なまえに何か言わなくていいの?」





グレイの存在に気付いたルーシィがニヤニヤと笑いながらグレイにそう言う。

何かを感じ取ったグレイはエルザの顔を見る。

が、彼女はうんうんと頷くばかりだった。





『な、何よグレイ…』

「…その……ドレス…………」





そこで言葉を止めた。

ルーシィは面白くないとか、エルザは軟弱だな、とか言っていた。

何の事だろう。





『グレイ、スーツ似合ってるね』

「!、な」

『黒髪だから、白にして正解だったかも』

「あはは、グレイ……」

「流石というべきだな、なまえ」

『へ?』





歩きながら式場へ向かう。

段々と扉が近づいて、思わず彼のスーツを握ってしまった。





「大丈夫だ」

『うう…』

「……あとな、なまえ」

『…ん?』

「お前もドレス、似合ってるぜ」





ああ、やっぱりこの人は世界一のタラシだ。

どうしてそんなに、女のコを、あたしを夢中にさせるような事言うのだろうか。























「一生、愛し続ける事を誓いますか?」

『――――――勿論』

「バカにすんなよ、生まれ変わっても愛してやる」





そう言ったグレイに思わず頬を熱くして笑ってしまった。

周りからは冷やかしの声がした。

…そのあとに聞こえた鉄の音は十中八九エルザの鉄拳だと思われる。





「では、誓いのキスを」

『あー…それは、』

「まさかやらねーつもりか?“誓いの”キスだぞ」





そう言われては何も言い返せず、数秒俯いてから顔をグレイに向け、ベールをグレイが上げたのを確認して目を閉じた。





『だいすき、愛してるわグレイ』

「俺はなまえより愛してるけどな」





触れるだけの優しいキス。

今この瞬間が嬉しくて、涙が出た。





「よォし!!もう食っていいんだろ!??」

「よさないかナツ!!まだ式が…」

「エルザなんで泣いてんの?自分の娘の結婚式じゃあるまいし…」

「ていうか酒はぁ?まだなの?」


「なまえー!!グレイに泣かされたらいつでも俺がもらってやるぞー!」

『あはは…』

「てんめェこの野郎!!!」


「なまえおめでとう!!!」

「グレイ!!なまえ幸せにして、自分も幸せになってね!」




















この日あたしは一生分の感謝をし、



一生分以上の愛を、彼に誓った。












(だいすき)

(生まれ変わっても愛してる)

(ずっと、ずっと、一緒にいよう?)


110503



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