FT夢

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 日差しが、痛い。
 光に対して痛いという表現はおかしいのだが、今回ばかりは言わせてもらう。痛い。




「アイリスってば、日焼け止め塗らないから…」

「折角の白い肌が、真っ赤になってしまっているぞ」

『いだっ!?…ちょ、エルザさん、触らないで、肩触らないで、痛いヨ!!』


「アイリス!!見ろよ、ちっせーカニがいたぞー!!」

『〜〜ッ!!?』




 浜辺で掴まえたであろう小さなカニをつまんだナツが、元気な声であたしに呼びかけながら、背をばしばし叩いてきた。太陽によって良い感じに焼かれたあたしの肌には大きすぎる刺激のせいで、声にならない悲鳴を上げた。
 涙目になりつつナツをキッと睨むと、恐ろしい事に、彼は「悪ィ悪ィ!」と言いながら後ろから抱きついてきた。(もう、)




『にゃ、にゃつ…や、やめろ…!』




 日焼けの痺れるような痛みと、水着のせいで直接触れるナツの体温のせいで身を固めてしまう。だめだ、やめろ…!




「なーアイリス!今日はサラシ巻いてないんだな!」

『は?』

「だって、」

「離れろ、ナツ」




 急にナツの重みが無くなり、その瞬間の痛みでまた「ひう、」と情けない声を出してしまった。振り返ると、そこにはナツを片手でひっぺがして立っているグレイの姿があった。その、えっと…ものすごく怖い顔をしていらっしゃる。そのワケが分からなくて苦笑いをしてしまう私の手を掴むと、グレイはちょっと来いと無理矢理引っ張っていってしまった。
 雪国出身だから肌が弱いんじゃないかなあと思うのだけど、そんなことないのか、それともグレイはちゃんと日焼け止めを塗ったのか、肌が赤くなってはいない。羨ましい。

 そんなことより、どこへ連れて行かれるのか。呆然とそう思っていると、彼は浜辺に設営された飲食店――所謂海の家というヤツの裏へとあたしを連れていった。海岸からは影になっていて、殆ど見えないだろう。

 いや、今重要なのはwhereではなく、whyだ。




『…グレイ、どうしたの』

「……」

『ていうか、痛いヨ…』


「あ、悪い」




 慌ててあたしの手首を離すグレイ。そこにふうふうと息を吹きかけながら、目の前のグレイを見つめた。何やら苦しそうな顔をしている。体調が悪い…というわけではないだろう。流石に、体調が悪いようならあたしでも見たら分かる。グレイなら、尚更。




『何か言いたいことがあるなら言いいなよ』

「…怒らねェか?」

『うん。怒んないよ』


「…アイリスが、その、腕の傷隠したがってるのは知ってる」

『うんうん』


「それに、水が嫌いなのも知ってたから」

『うん、うん』


「絶対海には入んねえって思ってたのに」

『え?』


「水着、着てくるから」

『……ん?』

「その…」


『……もしやとは思うけど、
 今日ずっとあたしと一定距離を保っていたのは、あたしの水着に欲情していたからとでも言うつもりなのかナ?』


「……っ」




 かあっと顔を真っ赤にして顔を逸らすグレイ。…日焼けしていてよかったと、今始めて思った。きっとあたしも同じように赤くなってしまっているから。痛いのは確かだけど、お陰でグレイに悟られずに済みそう。
 まったく、なんて平静を保ったフリして彼の顎を指先でつまんで、目線を合わさせた。

 …グレイの目は、とっても綺麗な色をしてる。深い海の底のような、素敵な色。




『グレイのえっち』

「!?」




 さっき去り際にナツから受け取った小さなカニのハサミの部分をグレイの鼻先に挟ませると、彼は「いってえ!!」と大袈裟にリアクションをくれた。




『グレイ、お詫びにちょっと付き合ってヨ』



→あとがき

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