FT夢

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『………』

「……」


『そんなに動かすなよ…なんともない』




 あたしの右腕を持ち上げたり、くるくるしたり、果ては二の腕ぷにぷにしたり。なんともないと繰り返しているのに、グレイはあたしの――一度吹っ飛んだ――腕を確認するような目で見つめている。


 表向きは、ポーリュシカさんに治療してもらったことになっている私の腕。

 今日から仕事の受注が再開して、早速向かおうとグレイに声を掛けると、彼は真っ先にこの腕の心配をした。

 …正直、グレイにだけはこの身体のことを話してしまおうかと思ったこともある。けれど、どうしても憚られる。


 心のどこかで、化け物だと拒絶されることを恐れている自分がいる。
 グレイは、そんなことを言う人じゃないのに。




「もう一ぺん言ってみろ!!!!」




 がこんという突然の大きな音、そして声に、あたしもグレイも驚いて息を呑んだ。エルザの声、そう気付くのにそんなに時間はかからなかった。




「この際だ。ハッキリ言ってやるよ。弱ェ奴はこのギルドに必要ねェ」

『!』

「貴様…」

「ファントムごときになめられやがって…恥ずかしくて外も歩けねーよ」




 エルザと対峙しているのは、最近姿を見せなかったラクサスだった。反射的にグレイの手を握る。彼は私をかばうように自分の影に隠してくれたけど、その動きにつられてこちらを見たラクサスと、一瞬目が合う。(……ラクサス、)




「あんにゃろう。帰ってくるなり好き放題言いやがって」


「オメーだヨ、オメー。
 元はと言えァ、オメーラがガジルにやられたんだって?
 つーかオメーら名前知らねえや。誰だよ?」



 情けねえなと、ラクサスは高笑いする。その言葉に苦虫を噛み潰したような表情をするレビィ達。言い返せないのはその自覚があるからなのか、ラクサスに逆らうことを恐れているのか。




「ひどい事を…」

「これはこれは、さらに元凶のねーちゃんじゃねーか」


「ラクサス!!!
 もう全部終わったのよ。誰のせいとか、そういう話だって初めからないの。

 戦闘に参加しなかったラクサスにもお咎めなし。
 マスターはそう言ってるのよ」


「そりゃそうだろ。オレには関係ねえ事だ。
 ま…オレがいたら、こんな無様な目にはあわなかったがな」




 グレイの手を握る力が、自然と強まった。震えるあたしの肩を抱き寄せて、グレイが「大丈夫だから」と耳元で囁く。

 ラクサスの言葉にエルザが手を出す、出そうと、我慢の限界がきたと言わんばかりの表情でラクサスを睨んだ直後、




「ラクサスてめえ!!!!」




 彼女が手を出すより早く、額に青筋を浮かべたナツが飛び出した。しかし、その拳はラクサスをとらえる事なく大きく空を切るだけ。一瞬にして彼の後ろに回っていたラクサスは再び高笑いする。
 お決まりのようなナツの勝負の申し出を断ったにも関わらず、挑発するようなことを言うんだから世話がない。




「オレがギルドを継いだら、弱ェモンは全て削除する!!!!そしてはむかう奴も全てだ!!!!
 最強のギルドをつくる!!!!
 誰にもなめられねえ、史上最強のギルドだっ!!!!」


『それじゃ、ラクサスは一人になるよ』




 思わず口から零れた言葉に、ラクサスが気付いてしまった。こちらを睨まれて、情けない事に、あたしはグレイの背中へと更に縮こまった。それでも、彼が此方に近付いてくるのは分かった。




「そうやって相棒とやらの影に隠れてるだけのテメエに言われたかねえな」

『……っ』


「アイリスに近付くんじゃねえよ」




 言葉を詰まらせるあたしの代わりにグレイがラクサスを睨みつける。止めてくれと言えない、あたしが悪いんだと言えない。グレイがその行動をとって安心してしまう自分がいたからだ。
 ラクサスは何かを口にしようとしたが、それを吐くことはなく、小さく舌打ちをして行ってしまった。



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