FT夢

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藍色の花と橙の花が入り混じったそれを、冷たい石の上にそっと置いた。
ここにくるのは二度目だし、この下にいる女性にも、実は会ったことがない。

けれど、花を供えた。



「…レイラ、ハートフィリア…」



石に刻まれた文字を指先でなぞりながら音読する。
目を閉じて、音を良く感じる。

脳裏に描く、幼いころのルーシィの姿。
母と呼んで慕う、レイラ・ハートフィリアの姿。



「…さて」



先程から何やら騒がしい、このハートフィリア邸の書斎。
その部屋の窓から二人の姿が見える。



「私が戻ってきたのは、自分の決意をお伝えする為です。
 確かに、なにも告げずに家を出たのは間違ってました。
 それは逃げ出したのと変わらないのですから」



凛とした声の聞こえる方向へ目をやる。



「だから、
 今回はきちんと自分の気持ちを伝えて、家を出ます」



きっと、屋敷の中は豪華なのだろう。
壁は大理石で、床は上等な布が使われた豪華なものなのに。

それが霞んで見えるほどに



「あたしはあたしの道を進む!!!
 結婚なんて勝手に決めないで!!!」



彼女の姿が美しいから。



「そして妖精の尻尾には二度と手を出さないで!!!!

 今度妖精の尻尾に手を出したら
 あたしが…ギルド全員が、あなたを敵とみなすから!!!!」



やってくれるなあ、ルーシィちゃん。
あたしが言おうとしていたセリフをよくも全部言ってくれたもんだ。

驚愕に見開かれる、目の前の男の、彼女の父親の瞳。



「あんな事しなければ、もう少しきちんと話し合えたかもしれない。
 でも、もう遅い。
 あなたはあたしの仲間をキズつけすぎた。

 あたしに必要なのは、お金でも綺麗な洋服でもない。
 私という人格を認めてくれる場所。

 わずかの間だけど、ママと過ごしたこの家を離れる事はとてもつらいし、
 スペットさんやペロ爺やリボンさん、エイドさん…みんなと別れるのもとてもつらいけど…

 でも…もしママがまだ生きていたら…
 あなたの好きな事をやりなさいって言ってくれると思うの」



そこまで言って、彼女は表情を和らげて、笑った。
優しく、美しく――強く。

綺麗なドレスは、自らの手で破り捨てて。
父に自ら背を向けて。



「さよなら、パパ」



部屋の扉を開く。
もうここには戻らないことを決意して。


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