FT夢

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≪莫迦者が≫
『…仰る通りです。返す言葉もありません』



魔水晶越しにあたしは深々と頭を下げた。

事後報告――セーシェル・ガイアへ、件の出来事を話すと、彼女は案の定このような言葉をあたしに掛けた。
まあ、今日は此方がメインではなく評議員にしょっ引かれて来たんだけど。
一応言っておくが、今回ジークレインは関係ない。



≪ギルドが壊れたか…あそこには儂の部屋もあったんじゃがな≫
『あれは不法滞在じゃないですか』
≪うるさいのう…ちゃんと家賃は払っておるじゃろう≫


『…それより、早く帰って来ることはできませんか』
≪むう?≫

『こういう時こそ、貴方の魔法の出番でしょう』



念を押すように、ギルドの復興作業が難攻していることを告げる。
彼女は俯いて口元に指先をやると、少し考える素振りを見せた、が。



≪身から出た錆じゃ。儂に頼らずなんとかするんじゃな≫



返って来た返事は素っ気ないものだった。
…こういうところは、酷く真面目だ。普段はもっと適当なのに。

緩くウェーブした髪をくるくると弄びながら不敵に笑うセシリアは実に美しく見える。
そのまま絵画に、あるいはビスクドールとして飾って置ける。
まあ、彼女の外見をいくら形容しても、その内側から溢れる高貴さや知的さまでは言い表せないのだけど。



≪…実を言うとな、暫く帰れそうにないんじゃ≫
『え?何故ですか?』
≪クエストに随分手間取っておってな…儂の後ろで主の師匠も倒れておるぞ≫
『!』



ほれ、という言葉とともに魔水晶が傾き、広げられた簡単な寝具の上で眠る師の姿があった。
傷は少ないが…「魔力を随分消耗してな」あぁ、だから寝ているのか…
…この人ってば。



≪しかし弟子からの通信を無視するのは関心せんな。起こすか≫
『クク…いや、構いませんよ。寝かせてやってください』
≪むぅ?そうか…≫



右腕に力を込めるように構えたセシリアに制止をかけ、あたしはこらえられなかった笑いをこぼした。
ホント仲いいなあ、この人たち…
きっとあたしが止めなければ、師匠はセシリアに起こされて、喧嘩が始まるのだろう。



『あぁ、そう言えば…ミス・セシリア』
≪なんじゃ?≫

『貴方…聖十大魔道の称号授与を放棄し続けてる、って…事実なんですか?』



数日前、戦いの最中幽鬼の支配者のジョゼがこぼした言葉をついでだから訊いておくことにした。
あたしの質問に多少驚いたようだったが、セシリアは先程のあたしのように笑いを堪える事なく、一気に笑いだした。



≪なんじゃ、それは…っく、ははは…どこで聴いた?≫
『ファントムのマスタージョゼが』

≪あっはっは!!愉快じゃのう!!そうか、そう言われておるのか…くく…≫
『…その様子だと、事実と違っていらっしゃるので?』

≪いや、事実じゃ≫




確かに儂は聖十の称号授与の話を持ちかけられ、それを放棄…厳密にはサボタージュしている。

セシリアは悪びれることなくそういってのけた。
相変わらず何言い出すんだこのばーさん。え、サボってる?
疑問というより疑念のような思いがもやもやする中、ようやく笑いが収まった(いやまだ笑ってる)ようで、ゆっくりと口を開いた。



≪半年程前じゃ。突然知らせが来てな…儂も最初は、光栄だと思って受け取ろうとしたんじゃ≫
『……』
≪しかし、あの評議員の間抜け共はこの儂を、聖十の中で下から数えた方が早い席に放ろうとしたんじゃぞ?≫
『は、はぁ…』

≪だから言ってやったんじゃ。"儂を聖十にするなら、頂点の席を用意しろ"とな≫
『…御無礼を承知で言いますね、お前バカか
≪実に愉快じゃ。儂は何も放棄しとらん、ただ待っておるだけじゃ≫

『サボタージュというのは?』
≪授与式の知らせが来ても全ていっとらん≫
『子供か』



珍しく強気じゃのう。セシリアはそう言ってまたくつくつと笑う。
っとにこのばーさんは外見だけだな…さっきと言ってることが矛盾して申し訳ないが。

さて、そろそろ帰ろうか…復興作業とやらも続いてるし。



≪こやつには儂からちゃんと伝えておく≫
『助かります。では、また…クエストの方頑張ってください』
≪うむ。――生きて帰れたら、また会おうぞ≫



その言葉に何を返そうとしたのかは分からないが、何かを言いかけたあたしの言葉を聴く前に、彼女は自ら魔水晶の通信を切った。


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