FT夢

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「前々から気にくわんギルドだったが――戦争のひきがねは些細な事だった。

ハートフィリア財閥のお嬢様をつれ戻してくれという依頼さ」




ハートフィリア財閥。

フィオーレでも有数の資産家であるハートフィリア財閥を、アホなあたしでも耳にした事がある。

一生を費やしても使いきれない程のお金を、手にしているとか。

その、娘。

ルーシィ・ハートフィリア。




「ハートフィリアの金をキサマらが自由に使えたとしたら…間違いなく、我々よりも強大な力を手に入れる!!!

それだけは許してはおけんのだァ!!!!」


「がっ、!!……」

『う、ぐっ、…』




締め付ける力が強くなる。

魔法から伝わる、所有者の怒り、焦り。

それがあまりにも的外れすぎて滑稽で…あたしもエルザも笑った。




「どっちが上だ下だと騒いでる事自体が嘆かわしい…が…キサマらの情報収集力のなさ…にも…あきれる…な…」

「何だと?」

「ルーシィは家出…して、きた…んだ…家の金など使えるものか」


『家賃…7万の、家に住んで…あたし達と変わら、ず…仕事をして…

そんな当たり前をちゃんと“幸せだ”と笑える素敵な…普通の女の子、なんダヨ…』


「共に戦い…共に笑い…共に泣く…同じギルドの魔導士だ…」



『戦争のひきがね?

ハートフィリアの娘?

だからどうした。ルーシィはルーシィだろーが』


「花が咲場所を選べないように、子だって親を選べない――

――貴様に涙を流すルーシィの何がわかる!!!!




エルザもあたしも、締め付ける痛みよりも心の痛みが、怒りが勝っていて。

ただ――悔しかったんだ。




「これから知っていくさ」

『!!?』




「ただで父親に引き渡すと思うか?金がなくなるまで飼い続けてやる。

ハートフィリアの財産全ては私の手に渡るのだ」





たかが、たかがそれだけの為に。

あたし達のギルドを壊し、傷つけ、

ルーシィに涙を流させ。

奪うというの?


怒りと悔しさが混ざり、あたしは叫びとも呼べない声を発し、身を捩った。

すぐ傍でエルザも激昂し、力のあまりにジョゼの魔法を引きちぎろうとする。




「力まん方がいい…余計に苦しむぞ」

「ぐあああああっ!!!!」

『っぁあ、うああっ!!!』




呪いがあたしの身を再構築するも、痛みは徐々に身体を蝕む。

耐え難い苦しみを断続的に受け、意識が遠退いた―――その時だった。


身体を締め付けていた魔力は消え、暖かい力が空間に満ちる。

宙に投げ出されたあたしとエルザは床にそのまま落ち、この暖かい何かの源を探した。

いや――何か、ではない。




「いくつもの血が流れた……子供の血じゃ。

できの悪ィ親のせいで子は痛み、涙を流した。互いにな…。

もう十分じゃ…

終わらせねばならん!!!」




頼もしく暖かい魔力は、紛れもない――あたし達のマスターの力。

あたしもエルザも、感動のあまり最初は口をはくはくさせていたが、




「マスター…」

『力が…戻ったんだネ…』




マスターの姿を見ると、ジョゼはニヤリと口角を吊り上げた。

マスターも額に青筋を浮かべてジョゼを睨む。

ピリピリとした空気――殺気が、肌に刺すように伝わってくる。




「天変地異を望むというのか」

「それが家族(ギルド)のためならば」





安心感からか、身体中が悲鳴を上げる。

傷はもう殆ど癒えている――エルザには不自然がられてない――にも関わらず、刺すような痛みが断続的に襲ってきた。

…痛いのが嬉しいだなんて、とんだマゾヒストになったものだよ。




「なんだ…?この温かいような…懐かしいような魔力は…」

『グレイ…エルフマンも…』




気がついた二人に更に安堵して、二人の手を握る。

状況が読み込めてない中、マスターが低く全員この場を離れるように命じた。

ここにいては、マスターの邪魔になる。

傷だらけの身体をお互いで支え合うように、あたしたちは立ち上がった。




「あなたが出てきた以上、もうザコには用はありません。しかし、後で必ず殺してあげますよ」

『…ほざいてろ!』




最後にべーっと舌を出して威嚇(?)する。

ジョゼはあたしを見てピク、と僅かに眉を吊り上げるも、すぐにマスターに視線を戻した。


負けるハズがない、マスターが。あたし達の親が。

子を思う親が、負けるハズ、ない。
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