FT夢

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凄まじい爆音。叫び―――そして崩壊。

幽鬼の支配者のギルドを真っ二つにした張本人と思われるナツに、あたしは心の中でありがとうと呟く。

ガラガラと建物が崩れ行くも尚、目の前の男は余裕綽々の笑みを浮かべていた。




「ナツの戦闘力を計算できてなかったようだな…

わ…私と同等か、それ以上の力を持っているという事を…」


「フン。謙遜はよしたまえ、妖精女王。

君の魔力はすばらしい。現に、この私と戦い…ここまでもちこたえた魔導士ははじめてだ」




ジュピターのダメージさえなければ、もう少しいい勝負をしていた可能性もある…ジョゼは心にもない事を言う。

いや…仮にそれが本心だったとしても。

彼はそれでもこう続けるだろう。

「しかし、君は私に勝てない」と。




「そんな強大な魔導士がねぇ…マカロフのギルドに他にもいたとあっては気にくわんのですよ!!!」




まとわりつくような不快感のある魔力がジョゼの右手に集まり、射出される。

それはエルザに当たり、彼女は苦しそうに痛みに叫んだ。

反射的に身体が駆け寄ろうとするも、歩く力は愚か、立つ力も残ってない。

全てを、エルザに託したから。


衝撃で吹き飛ばされたエルザはすぐに立て直し、ジョゼの次なる攻撃を避ける。

彼女の白い肌に、髪色と同じ赤が伝う。




「なぜ私がマカロフを殺さなかったか、おわかりです?」

「!!!」

「絶望――絶望を与える為です」

『……絶望?』


「目が覚めた時、愛するギルドと仲間が全滅していたらどうでしょう。

あの男には絶望と悲しみを与えてから殺す!!!!

ただでは殺さん!!!!苦しんで苦しんで、苦しませてから殺すのだァ!!!!」


「下劣な…」

『同感だね。というか、お前程度の小物に、マスターが負けるとは思えないヨ』

「黙れ!!!」




怒りの矛先が、余計なことを口走ったあたしに向かう。

別に食らっても構いやしない。あたしは死なない。

エルザには見られるだろうが、彼女は私が話したがらなければ無理に聞き出そうとはしないだろう。


が、しかし。

あたしの傍には今、意識のないグレイがいることを忘れていた。




『グレイっ!!!!』




意識のない身体に飛び付き、抱き締め、庇うように攻撃へ背を向けた。

焼けるような、引き裂かれるような、そんな痛みがあたしの後頭部やら背中やらに走る。

髪が爆風に当てられ、生き物のように蠢いた。




「幽鬼の支配者はずっと一番だった…」


「アイリス!!!」

『へいきダヨ!!あたしはいいから集中して!!!』


「この国で一番の魔力と、一番の人材と、一番の金があった。

……が、ここ数年で妖精の尻尾は急激に力をつけてきた。

エルザやラクサス、ミストガンやギルダーツの名は我が町にまで届き、火竜の噂は国中に広がった。

セーシェル・ガイアに至っては、有ろう事か聖十大魔道の資格授与を放棄し続けているらしいじゃねェか。何様のつもりだ?


いつしか、幽鬼の支配者と妖精の尻尾は、この国を代表する二つのギルドとなった。

気に入らんのだよ、もともとクソみてーに弱っちいギルドだったくせにイ!!!」




ジョゼの攻撃が途切れた隙間を見逃さず、エルザは剣構え、振るった。

それを紙一重で全てかわし――見切られている――ジョゼはニヤニヤと笑う。

あたしを一瞥すると、




「その点では、あなたに感謝していますよ」

『!!』

「妖精の尻尾にも、あなたのようなクズがいてくれて…ね」




背筋がゾクゾクと泡立ち、冷や汗が流れる。

コイツは…あたしの過去を視た人間だ。

クロードあたりが喋ったのだろうか。


ぐっと言葉を呑み込むあたしを見て、ジョゼは更に広角を釣り上げた。

エルザは悔しそうに目を細め、剣に力を込め直す。

あたしなんかの為に、怒ってくれているのだろうか。




「この戦争は、その下らん妬みが引き起こしたというのか?」

「妬み?違うなぁ。我々はものの優劣をハッキリさせたいのだよ」


そんな下んない理由で、人間風情が命持て遊んでンじゃねェよ!!!!




自然と、言葉が雑くなる。

奴の心には到底届かない…ただ吐かれた言葉。

ただ響くだけの、音。


ジョゼの発動した魔法がエルザを締め付けるよう巻き付いた後、同じものがあたしの身体にも向かう。

抵抗らしい抵抗も出来ず、あたし達二人は浅く呼吸を繰り返す。


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