FT夢
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クロードと名乗った糸目男は、胡散臭い笑みを浮かべてあたしを見ていた。
まるで、その反応を楽しむが如く。
「ボクはキミの全てを知ってるヨ、アイリス」
『……』
「あはは!目の色が警戒色びっしりだネ!」
そう言って、クロードはあたしの腕を引く。
途端に縮まる距離――というか、もう触れそう――に、身体は正直に反応する。
熱くなる顔。
じっと見つめられ、視線は逃げ場を探してあわあわと泳ぐ。
「一件すると社交的だケド、昔から人と触れるのが苦手で、上がり症気味
「ああ、ハグで卒倒したこともあったネ
「ギルドに来たばかりの頃は、大勢の人を前にして感情のコントロールが出来なくなって…即死レベルの電圧放っタ
「死人が出なかったのは――ダイスキナリサーナチャンのお蔭」
『……!』
「ネェ、アタリ?」
鼻先が触れそうな距離まで近づいて恥ずかしい思いもあるのだが、そう言われ、あたしは彼から目を逸らせなくなる。
ゆっくりと開かれた灰色の瞳が、まるであたしを氷り付けにしたかのように、動けなかった。
「こうやってキミに触れられるのを楽しみにしてたんダヨ?」
『…ストーカーを募集した覚えはないね』
「つれないネェ…氷の破壊姫様ハ…」
『手、離しなよ―――』
捕まれている左腕に力を込め、一気に放電を図ろうとする。
図ろうと、した。
しかしあたしの左腕はシーンと黙ったままで、放電は愚か一筋の光も伺えない。
『なん…で……』
「ボクは魔法が使えないし、ボクに魔法は使えナイ」
『お前は一体何者なんだ…!?』
「知りタイ?ボクのコト」
捕まれた腕を地に向けて一気に下ろされる。
突然のことで受け身が取れず、あたしの身体はグラリと傾いた。
そこに、クロードはニーキックを見事に叩き込んだ。
唾液が、消化物が、胃液が喉を駆け上がる。
『うぐ、っ、うぇ…っ……』
「怪我は治癒されても、打撃で発生する嘔吐や意識障害までは防げない、デショ?」
『、…痛っ、』
「ウンウン。痛がるアイリスもとってもカワイイヨ」
鳩尾に入った攻撃が四肢の力を奪い、その場に膝をつく。
低くなったあたしの首元に指を引っ掛けると、彼はそのままあたしを投げた。
片手で。ポーンと。
簡単にあたしは宙に浮かび、放物線まで描いて―――
幽鬼の支配者のギルドの外壁に激突した。
その衝撃でまた吐いて(今度は血も吐いた)、首筋から出血する。
『いた、たた…』
「アイリスってば、東洋国出身のワリに肌白いカラ、赤が映えるネ」
だらだらと血を首から流しながら瓦礫から身体を起こすと、いつの間にか、クロードが同じようにファントムのギルドに入って来ていた。
いや、本当いつの間に。
あたし対空時間4秒くらいあったのに。
……やはりコイツはファントムの魔導士なのだろうか。
赤、つまり血が映えると言ったのだろう彼に、あたしはわざと嫌味っぽく
『上物だろ、この服。この国屈指の色男のチョイスだからね』
ジークレインチョイスの深紅の服を撫でた。
でも赤は…苦手だ。
クロードは「とっても似合ってるヨ」とまた笑う。笑い続けてる。
「脱がしたいくらいニ」
『可笑しいね、冗談に聞えないナ』
「男が女に服をプレゼントするのは、その服を脱がせたいカラダヨ?」
『どちらかというと脱がされたからプレゼントされたんだけど』
軽く拳を握り、意識を高める。
雷投環を指先ではなく、手の平に大きめのリングのように作って、握る。
反対の手にもそれを作り、フリスビーのようにクロードへ投げた。
彼の前で、その環は音もなく砕けた。
…………。
『種明かしとかしてくんないの』
「タネもシカケもナイヨ」
『原因と結果は結びつけるものじゃなくて、結びついてるものだけど…
そこまで頑なに拒否するのなら、結びつけたげるよ』
首をこきりと軽い音立てつつ回す。
両手をだらんと下ろしつつ、あたしは「敵意はない。貴方と話がしたい」そんな意を伝えようとした。
クロードはそれだけで分かったようで、嬉しそうににまにまと笑った。
「イイヨ。お喋りしよっカ?」
『話が早くて助かるね』
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