FT夢
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早足で時折雷に身体を乗せつつマグノリアまで戻ると、あたしは脚を止めた。
ポーリュシカさんには格好いいこと言ったものの、腕が治るまで迂闊に動けない。
今のあたしは、考える事が仕事である。
(幽鬼の支配者の狙いはルーシィらしいギルドに入りたての彼女をギルドへの挑発はマスタージョゼ、幽鬼の利益――ルーシィ・ハートフィリア―――)
考えながら幽鬼の支配者のギルドとも呼べなさそうな建造物へと歩行を開始する。
見上げる魔方陣には見覚えがあった。
煉獄砕破…結構有名処の禁忌魔法だ。しかも素晴らしいサイズ。
あたしが溜息を吐く為息を吸うと、
「あんな危ない魔法使っちゃって、ジョゼたんってばシャレにならないよネ」
背後から、楽観的な――軽い声が聞こえたのは同時だった。
振り向くより早く、反射的にアクロバットで声の主から離れた。
ずささ…と地面を引っ掻き止まったあたしに拍手を送る男を、強く睨んだ。
「凄いネアイリス!!そんなコトも出来るんダ」
『…そっくりそのまま返すよ。気配が0だった。いや―――寧ろ消し過ぎなくらい』
「あはは!今度からは気をつけるヨ!!」
至極自然な作り笑いを見せる糸目男を挑発するよう、指先に雷投環をひっかけ弄ぶ。
幽鬼か、それ以外か。
彼に、ギルドマークらしきものは見受けられないが…ならあたしだってそうだ。背に背負っているのだから。
あたしの名前を既に呼んだヤツに自己紹介もアレだが、人に名前を訊く時は自分から、ということで。
『アイリス・ヴォルティーニ。嫌いな野菜はセロリとにんじん』
「可愛いネ」
『煩い。…お前も名前、教えなよ』
「―――クロード…ダヨ」
ニッコリ。
糸目男…クロードは笑った。
色素の薄い金髪は無造作に、首元で三つ網に結ばれている。
此方を見つめる灰色の瞳。
身に纏う着衣は―――あたしと同じ東洋のソレだった。
『同国出身者?まだこの国の言葉には慣れてなさそうだけど』
「この国には結構前からいるヨ!言葉は覚えるの面倒ダカラ…」
『そう―――なんだっ』
語尾で思い切り跳躍し、クロードの頭上から雷投環を無造作に数発打ち込む。
衝撃で生まれた煙が彼の姿を隠す様を、あたしは近くの建物の壁から眺めていた。
…手応えがない。あたって、ない。
もう一度、そう思い振りかぶった右手とは逆の左手をガシッと捕まれた。
誰にかって?訊いてくれるな、察してくれよ。
『な―――』
「あはは!アイリスってば、こんな事して…呪いから、過去から目を背けてるノ?」
包帯の巻かれた――ジークが巻いてくれた――腕をじっくり、舐めるように見る。
まだ腕の中身は回復していないしあたしは両利き…とは言え、元々は右利き。
咄嗟に怪我をしている腕で魔法を使った為、包帯の巻かれている左腕を取られたのだ。
痛いほどの力で、強く、掴まれ―――爪が肉を僅かに抉る。
『っお前、』
「何故知ってるのかっテ?
…アイリスのこと、ボクはなんでも知ってるヨ?
誕生日血液型身長体重3サイズ視力聴力過去未来…」
勿論、嫌いな野菜もネ。
クロードは再度、心底愉快そうに、そして怪しく笑った。
『何者なんだ、お前は…』
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